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出来損ない_46

すぐに運ばれてきた飲み物へ互いに手を伸ばし、フルーツティーへ口付けながら正面に座る藍澤に目をやった。 全然笑ってくれないな………。 珈琲を飲んでも真顔のままで、それが美味しいのか不味いのかさえ分からない。 もう一回、あんな風に笑ってくんないかな……。 「なあ、藍澤はどっか行きたいとことか見たいものないのか?」 「………ないな。そもそも今日はお前の献身的な看病の礼なんだろう?俺の行きたい所へ行ってどうする」 やたら“献身的な”が強調された気がするけど、この際無視しよう。 「まあ、そうなんだけどさ……アンタつまんないだろ?」 「だから俺が楽しむ必要はない。そう言うお前はどうなんだ?」 「俺?俺は楽しいよ。今日だってずっと楽しみにしてたんだし」 そうか、ともう一度珈琲が運ばれていく口元は少しだけ綻んでいるように見えた。 見えただけかもしれないけど。 「で、この後はどうするだ?」 「んー……あ、本屋行きたい!」 「お前本なんて読むのか?」 「うん。漫画だけど」 「……漫画かよ」 本と言えば藍澤の中では小説のことを指すのだと、部屋に並んでいた本棚を見れば分かる。 小難しそうな本ばっかだったもんな……。 読み物の違いはあれど、本屋なら少しは楽しんでくれそうだな。 他愛ない会話の中で、頼んだパンケーキが運ばれてきて俺は歓呼の、藍澤はドン引きの声を上げる。 「何だ、その生クリームの量……」 「え?これが旨いんじゃん。一口食べる?」 「いい。見てるだけで胸焼けしそうだ」 「同い年なのに爺臭い」 「お前がガキなんだ」 三枚のパンケーキの上に乗せられた生クリームのタワー。更にメープルシロップを掛ければ、有り得ないと反応が返ってくる。 「いただきまーす!」 用意されたナイフで切り分けたパンケーキを頬張る。生クリームは甘すぎず、メープルシロップと混じっていい感じ。生地はモチモチで一枚一枚は薄いけれど食べ応えは十分だ。 「んー!旨い!」 「そりゃ良かったな」 「まじで食わない?」 「食わない。」 「後悔しても知らないぞ?」 「安心しろ、絶対しない」 言葉を交わしながらもパンケーキの美味しさに手が止まらない。 あまりにも夢中になってたから、いつの間にか藍澤が頬杖をつきながら俺を見ていることに全然気付いていなかった。

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