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出来損ない_47

最後の一口を平らげて、旨かったと両手を合わせる。 「ふーっ、めちゃくちゃ旨かった」 「すごい勢いだったな……」 「だって美味しかったし」 心満たされた俺は残りのフルーツティーを飲み干そうとそれを手に取った。 「――おい」 「え?」 飲もうとした俺を引き留める声に顔を向ければ、紙ナプキンを掴んだ手が伸びてきて、俺の口の端をぐいぐい拭い始めた。 「クリーム付けすぎだ。汚い」 「あ、ありが――ちょ、痛っ、痛いって!そんな力任せにやんなくてもいいだろ!」 一瞬でも少女漫画みたい、だなんてドキッとした自分が馬鹿みたいに口を拭う手は雑な動きをする。 「赤くなるじゃん!」 「汚いよりはいい」 「優しく!して!イケメンなら優しく拭って!」 「意味が分からん。…よし、取れた」 ヒリヒリするし、これ絶対赤くなってんじゃん。 「どーも」 「どうやったらそんなにクリーム付けられるんだ。やっぱガキだな」 「だーれが!同い年だっての」 まあ、でもちょーっとはデートっぽかったかも…? 「じゃあ、行く?」 食ったことだし、そろそろ出ようかと声を掛けても藍澤からは反応がない。 表情は険しく、視線は俺の後ろを向いてるようだった。 「お前、抑制剤持ってきてるか?」 「え、うん、一応」 藍澤の視線を辿れば、一人の青年が角の席に腰掛けていた。俯いたまま微動だにしない。 「アイツ、発情期一歩手前だ。フェロモンが出始めてる」 「え、マジ?」 「薬、分けてやれ」 「藍澤が気付いたんだし、渡してやりゃいいじゃん?」 「発情期手前のΩにαである俺が声掛けても警戒される。最悪叫ばれ、暴れられる。そうなったら面倒だろ」 「でもアンタは…」 「お前だってそうだったろ?初めて会った日、お前はαである俺を怖がったはずだ」 伝票を手にした藍澤は先に出ると告げて席を立った。 「発情期のΩにとって、αは(けだもの)以外の何でもない。不能だろうが何だろうが、αである以上俺もその一員であることに違いはないんだ」 それは俺に言った言葉だったのか、自分自身に言い聞かせるものだったのかは定かではなかった。 ただ俺は、その言葉に何一つ返すことが出来なかった。

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