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出来損ない_48

会計へと向かう背中を目で追いかけながら、俺も席を立つ。 リュックから抑制剤を手に取って、角の席へと近付いた。 それでも微動だにしない青年に声を掛けると、肩がビクッと震え、恐る恐ると顔が上がる。 「あ、えっと、大丈夫?」 上気した頬と潤んだ目、息は詰めて殺している。 遠い微かな記憶と重なる。 あの時の郁弥と同じ表情(かお)だ。 縋るように助けを求める眼差しから目を背けたくなる。 「これ、抑制剤」 差し出した抑制剤と俺の顔を交互に見ながら、やがて躊躇いがちにそれを受け取った。 「あ、ありがとうございます」 「うん。早く飲んだ方がいいよ」 じゃあ、と告げて返した足をすぐに止めてもう一度振り返った。 「あのさ、もし声掛けたのがαだったら――……いややっぱいいや。ごめん、ちゃんと飲みなよ」 止めた足を動かして、出口へと向かう。 ――怖かった?そう確かめるように訊いて一体何になると言うんだろう。 答えなんて決まっているはずなのに。 けれどもし否定の言葉が聞けたなら、あの寂しそうな背中に届けばいいと、少しだけ思ったんだ。 「αでもΩでも同じ人間だって……そう言ったアンタが否定されるのは悲しいじゃん……」 店内に言葉を溶かして、顔に笑顔を作りながら外へと出る。 近くで待っていた藍澤には親指を突き立てて見せた。 「バッチリ!やっぱ発情期だったみたい」 「そうか。………予備はまだ持ってるか?」 「あるよー。それに俺はもうちょい先だから大丈夫」 「油断してると痛い目見るぞ。まあ、いいか」 歩き出した足取りは本屋へ向かう。 「俺の心配までしてくれるなんて優しいじゃん」 「面倒事になる前に手を打ってるだけだ」 「そんなもん放置すればいいだけなのに」 「後味悪い」「やっぱ優しいじゃん」そんなやり取りが擽ったい。 発情か………。 藍澤のフェロモンに誘発されたあの日、途中から記憶がない。気付けばベッドの上だった。俺もあんな表情(かお)を見せて、藍澤に縋ったんだろうか。 媚びて、ねだって、縋って………だらしなくαを求めたんだろうか。 「……きも」 「は?」 「何でもなーい」 分かってる、気付いてる。 俺が怖いのはαじゃない。 αに堕ちる、俺自身が一番怖いんだってこと。 本当に怖いのは、自分がΩであることなんだって。 αを、藍澤を知れば知るほど思い知らされていくんだ。

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