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出来損ない_52
「到着ーっ!はあー、疲れた」
やっとの思いで登りきって空を仰いだ。
喜びと疲労が入り交じった叫びは整理現象とも言えるほど自然に溢れていくと言うのに、隣の奴は平然とした顔をして煩いと一言発するだけ。
「なんだよ、待ち合わせの時はハァハァ言ってたくせに。可愛くねぇ」
「誰も可愛げなんて求めてない」
そんなくだらない言い合いの最中、「――司!七瀬くん!」と俺達を呼ぶ声が響いた。
前方には大きく手を振るちょっと馬鹿そうな男性――末松さんがにこやかに呼び掛けていた。
「……………おい、お前っ」
隣の鬼のような形相と目があった瞬間、脱兎のように駆け出して末松さんの背中へと身を隠した。
「チッ………そう言うことか。お前らいつの間にそんな仲良しこよしになったんだ?」
「あ、ああ、ごめんね。俺が七瀬くんに頼んだんだ。協力してほしいって」
だから怒らないであげて、と末松さんは俺を庇う。
「どうしても司と来たかったんだ。騙すようなことしてごめん」
「……………………」
険しい表情を崩さない藍澤へ俺も悪かったと言葉を投げた。
「……どいつもこいつも馬鹿ばっかだな」
吐き捨てるように呟いて藍澤は踵を返した。
「あ!逃げる気かよ?」
「……うるさい」
俺の言葉も聞かず、その背中は階段を下ろうとする。
あー、もう!
折角連れて来たのに!
ここで帰られたら何の意味もないじゃん!
仕方ないと駆け出したところで、張り上げた声が凛と響いた。
「――司!」
藍澤も俺も動きを止めて、末松さんへと振り返る。
「ごめん。ずっと、ずっとちゃんと謝りたかった」
「………お前が謝る必要なんて――」
「――俺さ、結婚するんだ」
紡がれた言葉に藍澤が微かに瞠目したことを俺は気付いてしまった。
「もういいだろう。それだけ年月が経ったんだ。司、ずっと立ち止まるのはもう止めよう」
「……………………」
「誰も恨んでない。誰も憎んでない。司は、間違ったことなんてしてないんだ」
「……………………」
「俺が………俺達が言葉を贈るとしたならそれは感謝の言葉だ」
末松さんは俺を横切ると真っ直ぐ藍澤の方へと歩みを進め、その目の前で足を止めた。
対して藍澤は一歩たじろぐように後退する。
「司、運命を愛さないでくれてありがとう」
その時、末松さんがどんな顔をしていたのか、俺には分からない。
ただ柔らかな声が耳にこびりついて、呆けた顔した藍澤が目に焼き付いて、俺の胸はまた苦しくなった。
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