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出来損ない_56

「………そうだな。………もう、いいよな?」 それはここにいる俺でも末松さんでもなくて、きっと紗奈さんへの言葉だったのだと思う。 「奏輔…」 「ん?」 「結婚の餞別に一つだけ教えてやる」 「?」 「これは紗奈が墓場まで持っていってくれた、俺達二人だけの秘密だ」 ずっと墓石から離れることのなかった視線が末松さんへと注がれて、彼が息を飲むのと同じく俺も唾を飲んだ。 「――俺がずっと好きだったのはお前だよ、奏輔。言ったろ?俺は運命を愛さなかったんじゃない……愛せなかったんだってな」 「……え……………ええ!?」 「だからお前が思うような綺麗なもんじゃないんだよ。俺はお前が好きだった。だから紗奈を愛せなかった」 開いた口が塞がらないと言うのは、この事なんだと末松さんを見て思う。かく言う俺も言葉を失って……。 「紗奈は俺の気持ちに気付いてた。まあ、恋敵ってやつだな。もちろん友人としては好意を持ってたけどな、お互い」 だ、騙された……てっきり藍澤も紗奈さんが好きなんだと思ったのに……いや確かにそんな事一言も言ってなかったけどさ……嘘だろ、まじかよ…。 呆然とする俺達を放って、藍澤は来た道を辿っていく。 「帰るぞ、七瀬」 「え、あ、うん……」 名前を呼ばれて俺も末松さんもやっと我に返った。 「――司!俺、その………」 末松さんの呼び止める声にも藍澤は足を止めなかった。 「……呼ぶなよ、結婚式」 サムいから、と付け足された言葉はちょっとだけ笑って聞こえた。 そんな背中を慌てて追い掛けようとしたら、今度は末松さんが俺の腕を掴んだ。 「ごめんね、君にもう一つだけ言っておきたいことがあるんだ」 「え……?」

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