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出来損ない_57

(もつ)れそうになりながら長い石段を駆け下りる。 末松さんと話したら遅くなっちまった……藍澤もう帰ったかな……。 あの背中を見つけたくて最後の石段を踏んでから駅までの道のりも息を切らして走った。 ちょうど駅に辿り着く頃、電車が一台走り抜けていった。 あー、絶対あれ乗ったよな……。 「くそぉ……あとちょっとだったのに」 上がった息を盛大に吐き出し、急に襲ってきた脱力感に改札手前でしゃがみ込んだ。 「話したかったのにな……」 仕方ない……次の電車乗って家に押し掛けよう。 気を取り直して改札を抜け、ホームへと出た。 ベンチを探して左右を見渡した先で、俺の視線は止まる。 「……遅い、次の電車15分後だぞ」 スマホに目をやりながら文句を垂れる藍澤がそこには座っていて、俺は自分の目を疑うように何度も袖口で擦った。 近付いてみても、やっぱりそれは藍澤で伸ばした手で摘まんだ頬も温かいので幻でもないらしい。 「ほ、本物だ……」 「当たり前だろ、離せ」 不機嫌を露にした顔から手を離して、空いていた隣へと腰掛ける。 「え、何、待っててくれた的な?七瀬、超感動なんですけどぉ」 「やめろ、その腹立つ喋り方」 「ごめん、ごめん。あまりにもビックリして。でもさっき電車あったじゃん?どういう風の吹き回し?」 冷めた目がほんの少し俺を見て、直ぐにスマホに戻っていく。 「………デートなんだろ」 「………え、うん。……だから?」 「…だから…………そういうもんだろ……」 言い淀む横顔が思いの外、可愛く見えてしまうのは俺の悪戯心を擽るからだろうか。 「そういうってどういう?」 「…………もういい」 ご機嫌を損ねてそっぽを向いた態度に、思わず笑った。 「……藍澤は末松さんが好きだったんだな。すっかり騙された」 「……騙した覚えはないけどな」 「ん?待てよ………てことは俺、あの人の馬鹿そうなとこに似てるって言われたわけ?」 「ふっ、似てるだろ?」 「全っ然!似てない!あの人絶対壺買うタイプじゃん!」

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