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出来損ない_59

肩口から頭を上げて流れた涙を袖口で拭う。 「アンタが手を出したのは皆、発情期のΩだったんだろ?」 「…………………」 「アンタが言う本能に身を任せて何もかもを忘れられたってのは本当だと思う。けどそれだけじゃなかったんだろ?アンタはΩを助けようとしてた。助けられなかった紗奈さんの代わりに」 「……………奏輔がそう言ったのか」 俺は小さく首を横に振った。 「末松さんは藍澤が発情期のΩに手を出してたって教えてくれただけ。だから助けようとしてたんじゃないかってのは俺の憶測。でもきっと、末松さんも同じ考えだと思う」 同じ馬鹿だもんな、とわざとらしい皮肉的な言葉は恐らく肯定の裏返し。 「藍澤………運命ってのは残酷だと思う。俺はΩの運命を呪い、アンタはαの運命を悔いて生きてきた」 「…………そうだ。お前は言ったな、Ωの運命から逃がしてくれと。俺には出来ない。所詮俺も運命に弄ばれてるに過ぎないからな。何も、出来やしないんだ……」 伏せられた横顔にそっと手を伸ばした。 「それでも抗って変わった運命もある。もし今こうしてアンタに触れられることが全てが繋いでくれた運命なんだとしたら、俺はちょっとだけ運命ってやつに感謝してもいいって思えるよ」 「…………………」 「アンタが紗奈さんを愛していたら、俺がΩじゃなかったら、あの時発情していなかったら、俺達はきっと交わらなかった」 伏せられた横顔は上がることはなく、代わりに藍澤の手が上に持ち上がり、てっきり振り払われると思った俺の手をぎゅっと握り込んだ。 「………いつかアンタにも、そう言わせてやる」 「……………………」 「俺と出会えて良かったってな」 「……………ふっ、大した自信だな」 「何たって藍澤は俺にベタ惚れする予定だからな。覚悟した方がいいぞ!」 言いのけた俺に藍澤が口を開くと、同時にホームへと電車が入ってくる。 確かに口は動いたけれど、音となって耳には届かなかった。 何度訊いてもその言葉は教えてもらえなくて、ただあの瞬間握られた手が痛いぐらいの力を感じたことは間違いない事実だったんだ。

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