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遅咲き_2
藍澤の、匂い…………?
脳内処理が言葉の理解に追い付くと、途端に頬が熱くなった。
「なっ、……」
「顔真っ赤、可愛い林檎ちゃんだ」
「林檎って……」
「おかしいなぁ、番じゃないんだ。何か心当たりはないの?」
その言葉にデートの帰り道での出来事を思い出して、咄嗟に項を押さえた。
あのデートの帰り道…………。
電車に乗り込んでから俺達は無言だった。
ただいつまで経っても藍澤は俺の手を離さずに、特別嫌な訳でもなく、人通りも全然ないからと好きにさせた。
電車を降りて、いつもの如く藍澤の家に押し掛けるつもりで同じ帰路を歩いていて。
そしたら急にピタリと隣を歩く足が止まった。
「わっ!な、何?どしたの?」
「…………発情期」
「え?発情期って、俺の?」
意図の掴めない藍澤に問えば、小さな頷きが返ってくる。
「昼も言ったけどもうちょいだよ。多分……」
「次が二回目だろ?」
「まあ、そうだね。アンタに会ったのが最初の時だし。って考えると本当にあと少しだわ」
「……まだ二回目なら周期も安定してない。油断はするなよ」
「ん?うん、分かった。けど何で急にまた……」
全然訳の分からない配慮にただ首を傾げて藍澤を見上げる。落ちてきたのは小さな溜め息で、俺は更に困惑するだけ。
「何?どーしたの?」
「……大声出すなよ」
「え?」
忠告の意味を理解する前に、繋がれていた手が強く引かれて身体のバランスが崩れた。
当然目の前にあった藍澤の懐へと身体を寄せる羽目になり、俺は俺で全く状況が理解できない。
「え、わ、何!?」
「だから大声出すなって」
慌てる俺とは対照的な冷静な藍澤は、そのまま俺の身体に腕を回して、身動きが取れなくなった。
え、待って待って待って!
何これ、一体どういう状況!?
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