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遅咲き_10
袋から顔をあげた七瀬は顔を綻ばせた。
「ふーん?」
いつも口煩く喋るくせに、ニヤつかせた顔をしながらそれ以上は何も言ってこない。
「……何だ?」
「べっつにー!あ、コーラもあるじゃん。貰っていい?」
「勝手にしろ」
手を洗うため一度洗面台へと赴いて、戻ったリビングでダイニングに腰掛けた。
向かいの席では既に七瀬がおにぎりを頬張っている。
「んーっ、うま!やっぱおにぎりはツナマヨ!」
具はまあいいとして、傍らに置いてあるコーラには理解が苦しむ。合わないだろ、どう考えても。
買ってきたいくつかの惣菜を並べて、俺も食事を始める。
「ど?ツナマヨ旨い?」
「………梅の方が旨い。けど、たまには悪くない」
「アンタってほんと素直じゃないよな」
可愛いげがないと呆れられるが、そもそも可愛げなんて求めてない。
「それ食ったら寝ろよ」
「もー、そればっか」
「何度言わせる気だ。倒れられたら迷惑なんだよ」
「はいはい」
空返事の合間にも欠伸が溢れ落ちてる。
目の下の隈、顔色も心なしか良くはない。
「お前、朝もう少し遅くまで寝てられないのか?」
「んー、無理。朝刊の配達あるし」
「………昼の仕事だけじゃなかったのか」
「うん。ん?言ってなかったっけ?」
案外コイツは自分の事を喋らない方だ。
秘密主義と言うわけではないだろうが……俺も進んで訊いたりしないせいか意外と知っていることは少ないのだと気付く。
「朝は朝刊配達で、昼は郵便配達やってんだ」
「掛け持ちしなきゃならないぐらい困ってんのか?」
「……まあね。ほら、Ωの欲制剤って高いからさ。ヒートは来てなかったけど、いずれ始まるだろう未来への投資ってやつ?貯金してんだぜ。これからちゃんと役立てられるよ」
何でもないことのように語る。七瀬は普段から見る印象よりも思慮深いタイプなんだろう。
「……そうか。悪かった、余計なこと言った」
「別に気にしてないよ。それに俺の事に興味持ってくれんのは嬉しいし」
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