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遅咲き_11

白い歯を覗かせて笑った七瀬を見ると毒気を抜かれる。 食べていた手を止めて正面を見やれば、七瀬も首を傾げてその手を止めた。 「どしたの?」 「生活が大変なら尚更ここへ来る必要はないだろ」 「ん?んー……まあ、これも未来への投資ってやつ?明るい幸せな俺の未来のための」 明るい、幸せ……か。 「……どうしてそこまで俺に拘る?」 「え、うーん……それは……その………勃たない、から……?」 「勃たなくても犯せると、前にも言ったが?」 俺が不能であろうが関係ない。 本能とはそういうものだ。αはΩを支配する。 それがこの世の摂理。 「それは、そうだけど………」 「俺が不能だからお前を幸せに出来るとは限らない。お前は…………俺じゃなくても、いや俺じゃない方がきっと幸せになれる。いい加減諦めたらどうだ?」 「…………やだ」 何を意固地になっているんだか。 小さい声ながらハッキリと否定の意を表す七瀬に、ほとほと呆れて溜め息が溢れる。 「じゃあもし俺が本気になったとして、お前は俺に愛される覚悟があるのか?」 「え…………」 「 番になるって事は……俺を落とすって事はそういうことだ」 面食らったような顔をした七瀬は、慌てて俺から視線を外すと俯いて黙り込んだ。 「………分かったらこんな所で無駄な投資をするより、もっと輝かしい未来のために行動するんだな」 「……――んで?」 俯いたまま、微かな声が耳に届いた。 「何で決めつけんの……?アンタが俺の一番の幸せかもしれないじゃん。何で勝手に決めつけんの?そりゃ、愛される覚悟とか大それた事言われてちょっとビビったけどさ………」 「じゃあ、お前は俺のモノになれるのか?」 「それは………分かんない。俺、好きってどんななのか分かんないから。今まで生きてきて、恋愛なんてしたことないし」 上がった顔は気恥ずかしそうにそっぽを向く。 「………ガキ」 「はぁ?ピュアって言えよ。純粋なんですーぅ」 心外だと戻った視線がジト目を向ける。 「ふっ、ピュアね」 「あ、何だよ、その馬鹿にしたような笑い!むっかつくなぁ」

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