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遅咲き_12

さっきとは打って変わって身を乗り出してくる七瀬の額を指先で弾いた。 「痛っ!」 「したようなじゃなくて、してる」 「ムカつく、俺にもデコピンさせろ」 「断る」 ギャーギャー喚きながら伸ばしてくる手を払って、止めていた食べる手を動かす。 「アンタばっかズルい」 「うるさい。さっさと食って寝ろ」 納得のいっていない顔をした七瀬も残っていたおにぎりを口へと突っ込んで荒々しく食べる。 「……………もしこの先、俺とお前が番になったとしたら――」 「――したら…?」 「…………………いや、何でもない」 「んだよ、言えよ。途中で止めるとか気になりすぎる」 「いい。それより、さっきは何を熱心にスマホを見てたんだ?」 気を逸らすために出した話題だと言うのに、七瀬は驚いた表情を見せ、次の瞬間には気まずそうに頬を掻いた。 「あー、えーっと………内緒…」 「………エロサイトか」 「なっ、違うって!」 「自慰なら自分の家でやれよ」 「だから!違うってば!」 「ご馳走さま。俺は風呂入るから先寝てろよ。あ、どうしても自慰したいならトイレでな」 「あ、ちょっ、待てよ!違うって言って――」 ユーティリティーまで追ってきた七瀬をドアの外へと締め出して、憤慨する顔を見下げた。 「覗くなよ、エロガキ」 「だぁから!違うって言ってんじゃん!」 抗議する声を遮るようにドアを閉めると、外からは「ばーぁか!」と叫び声が聞こえて、地団駄を踏む足音が遠退いていった。 騒がしい奴だな、全く。 やれやれと着ていた服を脱ぎかけて、横手の鏡に写った自分と目が合った。 そこには思ったよりも馬鹿みたいな表情をした自分がいた。 ………何て顔してんだ、俺は。 ――もし俺と番になったとしたら、先に死ぬな、なんて………ありもしない可能性を語る必要など無いくせに。 俺はアイツを失うことを怖れてるとでも言うのだろうか……?

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