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遅咲き_13
side Ω
藍澤の奴っ……誰がエロガキだっての!ばーか!ばーか!ばーぁか!!
煮え切らない気持ちをぶつける場所を探して、ベッドのある寝室のドアを開けた。
いつもは俺なりに気を遣ってソファーで寝てっけど、今日はベッド占領してやるもんね。ばーか。
と四肢を投げ出してベッドのど真ん中に大の字で寝転がった。
何だよ、何だよ…人がせっかく……。
ポケットに突っ込んでいたスマホを取り出してロックを解除すれば、藍澤が帰ってくるまで見ていた画面が表示される。
『失恋を忘れるための10の方法』、デカデカと書かれた見出し。
人がせっかく藍澤の為に色々考えてやろうと思ったのに……。
脳内で再生される“覗くなよ、エロガキ。”の台詞と、馬鹿にしたような笑い。
ムカつきが収まらず、サイトのタグを消してスマホを放った。
知らね、あんな奴。
そんな憤りを感じていたのも数分の出来事で、思っていた以上に疲労していた身体は意識がうつらうつらとしていく。
やべ……ねむ………。
藍澤に、文句……言わなきゃ……なの、に…。
襲い掛かる睡魔に抗えず、俺の意識は微睡みへと沈んでいく。
そして夢を見た。
最初は大きな手に頭を撫でられた。
擽ったくて心地よかった。
次は暖かい何かに包まれた。
甘い匂いが鼻に届いて、俺は安堵した。
知ってる、この匂い。
何だっけ?俺、好きなんだよな。
すっごく安心する………。
嬉しいなとすり寄ったら、それは途端に離れていって……寂しくて手を伸ばしたけど全然届かなかった。
何も見えないのに必死に必死に走って、手を伸ばして、それでも取り戻せなくて………悔しくて叫び出しそうになって、そこで目が覚めた。
「…………夢……?」
起こした身体は気だるかった。
ベッドに寝転がっていたはずなのに、布団が丁寧に掛けられている。
………藍澤がやってくれたんだ。
寝室を見渡しても藍澤の姿はない。
俺はソッとベッドを抜け出した。
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