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遅咲き_16
side α
微かな甘い香りが鼻につく。
出所は傍らで眠るΩから。
恐らく発情期が始まり掛けているんだろう。
発情期のΩは精神が不安定になりやすいと言う。
コイツの様子がおかしかったのも、そのせいだろうな。
それにしても、と安らかに眠るアホ面を眺める。
αと同じベッドに居ながらここまで熟睡するとはな……。無防備過ぎる。
「んぅー………ツナ…マヨ……」
………夢の中でも食ってんのか。
アホすぎる寝言に思わず笑った。
それから目元の隈に指先を伸ばした。
触れると七瀬はさらに安心したように笑う。
指先を滑らせて 掌で頬を包むと、今度はすり寄るような動きをしてくる。
「………七瀬、お前にとっての幸せって何だ?」
コイツは俺との番関係を望む。
叶えてやることは簡単だ。たった一度、項を噛んでやればいい。
だが……それがコイツにとって幸せの道筋だとは思えない。
αは番を作ったとしても、それに依存することはない。言ってしまえば支配者側になる。
……Ωは違う。
番となったαに依存し執着し、囚われる。
例えそこに気持ちがないのだとしても。
心と身体が分離して精神がボロボロになっていく。
俺と番を結んだ末の結果はそうだろう。
………コイツはどうしたら、幸せになる?
「………もう二度と間違いたくないんだ」
声に反応したのか七瀬は俺の方へ身体を寄せた。
「……ぅ…め……やだぁ…ツナ、がいぃ……」
「…………ふっ、まだ食ってんのかよ」
フェロモンの匂いが少しずつ確実に濃くなっていくのが分かる。
念のため抑制剤を用意しておくかとベッドから抜け出そうとして、着ていたスウェットを引っ張られた。
目を落とせば掴んでいるのは七瀬の手。
………いつの間に。
ぎゅっと握られた手を解けば、悲しそうな表情を浮かべる。寝てるくせに器用な奴だ。
「………すぐ戻る」
聞こえるわけがないのに、安堵したように見えたのはきっと暗がりのせいだ。
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