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遅咲き_17
side Ω
「――休め」
寝起き一番、薬を手渡してきながら藍澤は言う。
確かにボーッとするし、身体も何処か気だるい。
風邪かなと思ったけど、それとは少し違う。つまりこれは………。
「発情期だ」
「やっぱり?」
藍澤がくれたΩ用の抑制剤を素直に胃へと流し入れたけど、気だるさは抜けきらない。
いつもの時間に起きてこっそりと家を出るつもりだったのに、藍澤は俺よりも先に起きていて、休めの一点張り。
「アンタ、ちゃんと寝た?まさかずっと起きてたんじゃ…?」
「……Ωのフェロモンを嗅ぎながら眠れるほど図太い神経してない」
あ、そっか。
欲情はしないけど、フェロモンは感じるんだっけ……。悪いことしちゃったな……。
「それより仕事休めよ」
「でも仕事だし……」
「Ωを雇ってるんだ。そのぐらいの理解があるんじゃないのか?」
藍澤の言うとおり。Ωは理解のある会社でしか働けない。万が一に備えて自分がΩであることは、入社の時に伝えてある。
上司も発情期の時は遠慮せずに休んでいいと言ってくれていた。
「……分かったよ」
「一週間程貰っとけよ」
「一週間!?俺、この前すぐ終わったよ?」
「お前……Ωのくせに何も知らないのか?いいか、お前の発情期は安定してない。特にこの前は初めての発情期で初動にすぎない。本来なら4日〜7日間は苦しむことになる。薬だってどのぐらい効果があるか分からないだろ」
いつになく真剣な声音に、俺は黙って頷き、職場へ一報を入れた。
気まずさもあったけど、ゆっくり休むようにとの上司の言葉で胸を撫で下ろす。
「今は始まり掛けで症状が軽いだろうが、徐々に酷くなる。今のうちに帰った方がいいぞ」
「え…………」
「何だ、その顔?安心しろ、一応送ってやる。途中で襲われでもしたら寝覚め悪いからな」
そう言ってジャケットを羽織る藍澤が、準備しろと促してくる。
そりゃそうか。
発情期だもんな。一人で、耐えなきゃ……。
「あ、のさ………ここに居ちゃ、だめ?」
「………お前の相手はしないぞ」
「分かってるよ!そうじゃなくて……一人だと不安って言うか……」
「……………………」
「その……なんか……さ、寂しぃ……から………」
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