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遅咲き_20

side α 「――さっきから時計ばかり気にしてるね。もしかしてデートの約束でもあるのかな?」 例のごとく憎たらしい同僚が煽るようにものを言う。 「違う」 「そうなの?今日は姿を見ないから仕事終わりにデートなのかと思ったんだけど」 「俺とアイツはそんな仲じゃない」 ふーん、と疑わしい目を向けながら長谷はカウンターへと肘をついた。 客がいないのを良いことに、随分横柄な態度だ。 「そんなこと言っちゃって、あのキスマークはどう説明するの?あんな自分の匂い纏わせちゃってさ」 ニヤついた口元が高飛車に言葉を放った。 「………気紛れだ」 「気紛れ?藍澤くんにしては雑な言い訳だね」 「事実だ。あれに効果があるかは、俺にも分からない」 「ふーん、つまりは………」 一度言葉を切った長谷は傍まで近寄ってくると指先を俺の胸元に突き立てた。 「君は自分の気持ちと彼の気持ちを試してるって訳だ?」 「………………。閉店の時間だ。外の看板頼む」 「ふっ、君はいつも逃げてばかりだね。はいはい、了解しましたよ」 ヒラヒラと片手を振って店の外へ出ていく背中を無言で見送る。 何も言い返せないのは、長谷の言っていることが図星だから。的を得ている、的確にだ。 あのキスマークは、本来番になることを決めたαがΩに贈るもの。 番になるためには発情期を待たなければならない。 その間、他のαに手を出されないよう自身の香りを纏わせてΩのフェロモンを隠し、守るためのものだ。 だからその効果を発揮するためには一つの条件がある。 「――もう!最悪だよ!」 荒々しく扉を開きながらびしょ濡れになった長谷が店内へと戻ってくる。 「雨だよ、雨。それも豪雨」 「雨………」 長谷の有り様から確かに雨の凄さが窺える。 「藍澤くん傘持ってきた?」 「いや……」 「残念。僕もないから持ってるなら入れてもらおうと思ったのにな」 肩を竦めた長谷に、お前だけは入れないと返せば「冷たい!」と抗議の声。 雨、か……………。 そう言えばアイツを拾った日も、雨だったっけな…。

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