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遅咲き_21
side Ω
窓を叩く雨音が耳障りで、深い夢から目が覚めた。
「…………雨?」
重たい瞼を擦りながら窓辺に近付いてカーテンを開くと、思っていたよりも荒れた天候が広がっていた。
「うわ………めっちゃ降ってるし」
部屋の時計に目をやるともう少しで藍澤が仕事終える頃だ。
「…………アイツ傘持ってったのかな」
寝室を出て玄関にある傘立てを確認する。
本数が減っていないところを見ると、どうやら持っていってないらしい。
「持ってった方がいいかな……」
思い悩んで頭を掠めたのは、むやみやたらに出歩くなと言う藍澤の言葉。
いやでもどっか行く訳じゃないし……藍澤の所に真っ直ぐ行けば良いだけだし……?
幸い薬もよく効いてるから少しぐらい平気だろ。
「よし、届けてやるか」
こうして置いてもらってる礼も兼ねて。
そうと決まればとパーカーを着込んで、家を出る。
一応藍澤のスマホにメッセージを入れ、雨の中を歩き始めた。
歩き始めてたった数歩でスニーカーは水を吸い込み、最悪の履き心地だ。
「うわ、気持ち悪ぃ……」
いつも立ち寄るコンビニを通りすぎて、更に一ブロックを過ぎた先にある路地裏。
藍澤と初めて会って、助けられた場所。
偶然なのか……それともあれも運命ってやつなのか………。
藍澤はきっとただの仕事の帰り道で、それなら俺は……。
俺はどうして、ここまで逃げて来たんだっけ?
路地裏に差し掛かり顔を覗かせようとした刹那、勢いよく飛び出してきた人影が俺の懐にぶつかって、雪崩れ込むように地面へと転がる。
「――痛っ………え、何………?」
「――す、すみませ……ごめんな、さ………」
俺の上に転がった人物は慌てて身体を起こして、見上げた俺と視線が重なる。
その目は互いに大きく見開かれて、知らず喉が鳴った。
「え…………陽翔……?」
「…郁、弥………?」
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