81 / 152

遅咲き_22

どうしてここに?と喉まで出掛かったところで、それを遮るような怒鳴り声が路地裏から響いてくる。 「――逃げんじゃねえ!」 姿を見せたのはずぶ濡れになった体格のいい男。 男は直ぐ様、郁弥の腕を掴んだ。 「――やっ!」 「黙れ!」 何がなんだか分からないけど、とりあえず嫌がっている郁弥を引っ張って男から距離を取った。 「やめろよ、嫌がってんじゃん」 「あ?んだよ、てめぇ?」 威嚇を露にした男は俺に詰め寄り胸ぐらを掴んでくる。 その拍子に鼻を掠めた香りに思わず顔をしかめた。 コイツ、αだ………。 ヤバイなと思った時には既に遅くて、男も同じように顔をしかめていた。 「お前………もしかしてΩか?」 こんな至近距離で、しかも発情期である今、この男が確信の言葉を吐かないことに違和感がある。 いくら薬で抑えてると言っても普段よりは気付かれやすいはず………。 「上手く隠されてるが香りが甘ったるい……てめえ発情期だろ?」 瞬間、目の前の男はニヤリと口角を上げた。 「別に相手してくれんなら、てめぇでもいいぜ?発情期のΩ抱けるなんて最高だからな」 「はぁ?ふざけんな、離せよ!」 胸ぐらを掴む手に抵抗を試みたけど、体格を見て当然の通り微動だにしない。 「あ、や、やめ――」 「あ?てめぇはもういいや。こっちの方が面白そうだからな」 男の興味は郁弥からすっかり俺へと乗り換えたらしい。 力任せに引っ張られた身体がバランスを崩した隙に、男の手が頭の後ろに回って項を無防備に晒される。 「はっ、やっぱりな。他のαのお手付きってわけか」 実に楽しそうに男は笑う。 「この発情期に仲良く番にでもなる予定だったのか?」 「は?何言って…」 「これ、そのつもりでマーキングされてんだろ?このα、相当上物だな。上手くお前のフェロモン隠してやがるぜ」

ともだちにシェアしよう!