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遅咲き_27
「痛っ…………んだ、てめぇは!?」
痛みで立ち上がることが出来ない男は、それでも尚怒声を上げる。
藍澤は何も言わないまま男に近付くと、軽く上げた足で男を地面へと転がした。
「てめぇ何しやがる!」
身体に乗せられた藍澤の足に抵抗を見せているけれど、藍澤はビクともしない。
それどころか足で押さえ込んだ肩口をぐりぐりと動かして、男からは更に悲鳴が上がる。
「………お前、αだな」
やっと聞こえた藍澤の声は酷く冷たく、その背中からは表情が窺えない。
「はっ、だったら何だ?てめぇもだろ?しかもこの匂い………ああ、なるほどな。てめぇがあのΩにマーキングしたαか」
その問いに対しての返答はない。
「分かった、悪かった。てめぇが先に手ぇ付けてたって言いたいんだろ?もう横取りしねぇよ。俺ぁ、あっちで我慢してやる」
男が言うあっちとは郁弥のことで、彼は肩を振るわせた。
ふざけんなと俺が声を荒げる前に、倒れた男の悲鳴が上がった。
藍澤が肩に乗せた足を更に深く踏み込んだようだ。
「痛っ!やめろ!肩外れんだろうが!」
「だからなんだ?」
「おいおい、俺達お仲間って奴だろ?仲良くしようぜ、なぁ?」
「仲間………」
「てめぇ上級αだろ?あのマーキング、あんな芸当出来る奴なんざ極僅かだ」
確か以前藍澤のフェロモンにあてられた時、似たようなことを言っていたような気もする。
「俺だっててめぇ程じゃねぇが、αん中じゃそこそこの位にいる。なあ、同じαだろ?仲良くしようじゃねぇか」
「………同じ、α……か。ふっ、そうだな」
「だろ?じゃあ――」
「――くだらない。お前がαであろうと無かろうと俺には関係ない。人間の価値は、バース性なんかで決まらない」
俺達からは見えない藍澤の顔を見上げていた男は、身を縮み込ませた。
それから肩の上に置かれていた足が退くのと同時に、男は路地裏から走り去っていく。
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