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遅咲き_29
抱え込まれた藍澤の懐で、無意識に鼻を擦り寄せた。
藍澤の匂いだ。それからαのフェロモン……。
あの男とは違う、心地いい匂い………。
頭がぼーっとする……。
藍澤にお礼言わなきゃとか、郁弥だって怪我してるしとか、いっぱい考えなきゃなのに……思考が働かない。
藍澤と郁弥の会話が遠くに聞こえたけど、生憎内容を理解出来るほど耳を傾けていられなかった。
それから身体に何かを被せられ、浮遊感を感じ、瞑っていた目を開く。
身体に掛けられていたのは藍澤が着ていたジャケットで、どうやら俺は横抱きに抱えあげられているらしい。
いつもなら恥ずかしいし、むしろ屈辱だとさえ感じるはずなのに…………どうしてだか嬉しい。
すごく抱きつきたい。
そう思った瞬間には身体は動き出していて、藍澤の首の後ろへと腕を回した。
「……何だ?」
「……あつ、い……身体、ぁつ…い……」
「 少し我慢してろ」
揺れてる。藍澤が歩いてるんだ。
あ……これ、雨、顔に当たらないようにしてくれてんだ……これじゃ藍澤濡れちゃうじゃんか……。
俺のこと馬鹿って言うくせに、アンタの方がよっぽど馬鹿だよ。
雨冷たいのに身体熱い。
変だ、これ変。身体、変になってる……。
「ぁ……いざわ………」
「ん?」
「…お、れ………っわぃ……こわ、ぃ……からだ、へんっ……」
「分かってる」
そう言ったっきり藍澤は口を開いてくれなくて、俺がどれだけうわ言を呟いてもひたすら足を進めるだけで。
結局藍澤の家へと着くまで、何一つ言葉をくれなかった。
家に入ってすぐに運ばれたのは浴室で、お互い服を脱ぎもせず温かいシャワーを浴びる。
「脱がすぞ」
少し湯を浴びてから藍澤が俺の服に手を掛けた。
抵抗らしい抵抗はしなかったけど、肌に藍澤の手が触れると堪らなく気持ちがよくて身を捩る。
「んっ……ぁ…」
「下も脱がすからな」
下着ごとジーンズを剥ぎ取られ、興奮したままの昂りが姿を見せた。
「やぁ、見…るな……こんな………っ……」
「…お前の意思じゃないことは分かってる。だから恥じる必要はない」
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