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遅咲き_31

伸ばした手を藍澤の首の後ろへと回して、離れていかないようにぐっと引き寄せる。 「ごめっ………俺、………おれ……っ…」 酸素が上手く入ってこない。 息苦しい。辛い。怖い。涙が、止まらない。 「……大丈夫だから、落ち着け」 背中に回してくれた大きな手が更に身体を寄せてくれて体温が伝わる。 そしたらもっと涙が出てきて……どうしたらいいのか分からなくなる。 ここじゃ雨は降らないから、ダメなのに……。 「助け、て……あいざわ……っ………ぅぁ…っ…」 「………分かった。助ける。でも一つだけ覚えておけ」 そう囁いた唇が耳元へと近付く。 「――お前を助けるのは俺のエゴだ。お前が俺を、αを欲した訳じゃない。いいな?」 「…っで、も……おれ、が…っ……」 「七瀬、俺はきっとお前にとって不幸な選択をしてる。前にも言ったが、俺がαである以上お前をその性から救うことなんて出来ない」 むしろ、と背中に回った手に力が入る。 「俺はその性にお前を縛りつけることしか出来ない」 「…………ぅ……あ…………」 ――違う。違うのに…。 「それでも何もしないで後悔するのは、怖いんだ」 俺が、本当に、逃れたいのは…………。 「だからこれは俺のエゴだ」 厭らしく、浅ましく、ただ、ただ……虐げられて、惨めに落ちていく自分自身で……。 「それだけは覚えてろ」 藍澤なら大丈夫だと思うのに………。 その確かな理由を俺はまだ持っていなくて。 「後のことは、全部忘れていい」 回らない思考の中で、俺はひたすら……その答えを探し求めていたんだ。

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