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遅咲き_38
郁弥からの………。
受け取ったメモ紙は雨に濡れたせいかシワが寄ってしまっているし、文字も滲んではいたが読めない程じゃない。
そこには会いたい、連絡がほしいと言う主旨と携帯の番号が書かれていた。
番号、当時と変わってないじゃん………。
親友だった。一番掛け慣れ親しんだ番号。
忘れるはずない。
でも俺は高校卒業して番号も変えたから、郁弥は知らないのか……。
「友人か?」
「ん、まあ……親友、だった奴かな」
「珍しく煮え切らない言い方だな。何か嫌なことでもされたか?」
「違うよ。むしろしたのは俺の方。……前にさ、手を振り払っちゃったって話したの覚えてる?アイツがそう。俺、アイツが助け求めてた時、逃げ出したんだ」
最低だろ、と自嘲する俺に藍澤は何も言わない。
「会って何言われんだろ……あの時のこと責められんのかな………」
「…………そういう風には見えなかったけどな」
綺麗な動作で箸を運ぶ藍澤の言葉に、何だか無性にムカついた。
「分かんないじゃん、そんな事。アンタは郁弥のこと知らないんだから」
「そうだな」
責めるような強い口調になってしまったけど、藍澤はそれに反論することなく、素直に言葉に頷いた。
「…………ごめん。ちょっと強く当たりすぎた」
「別に。本当のことだからな。俺はアイツのことを知らない」
「…………………」
「けどお前のことは分かる」
「…………え」
「お前は人から恨まれるよう人間じゃない。馬鹿だけどな」
意外、だったのだと思う。
藍澤がそんな事を言うのは。
「な、何それ……褒めてんのか馬鹿にしてんのかどっちだよ」
「どっちも」
「…………一応褒めてもくれてんだ?」
「一応な」
手にあったメモ紙へもう一度目を落とす。
あの時からずっと、ずっと逃げ続けて……藍澤に逃げんなって言っておきながら格好悪ぃよな……。
「……あのさ、郁弥に会おうと思うんだけど、やっぱりちょっと怖いから……アンタん所の店で会ってもいいかな……?」
「…………客として来るなら俺に止める権利なんてない」
「そっか、さんきゅ」
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