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遅咲き_39
二日後、藍澤の仕事先にて俺の心臓は緊張のピークを迎えていた。
「わあ、ガッチガチだよ?大丈夫?」
「う、うん………」
心配してくれる長谷さんの声も遠くに聞こえて、正直あんまり意味分かってない。
「何々、彼どうしたの?」
俺に訊くことを諦めたらしい長谷さんは、標的を藍澤へ移したようだ。
「知らん」
「嘘つきーぃ」
そんな会話も鉄砲耳で、俺の意識はバーの入口に集中していた。
大丈夫、大丈夫だ………。
メールの感じだと喜んでくれていたし、会ったらまずあの時のことを謝って……例え許してもらえなくても、あの時の後悔はちゃんと伝えたい。
鈍りそうな決心を堪えて、カクテルを作っている藍澤へと目を向ければ、それに気付いたのか微かに口角が上がった。
言葉はくれないけれど、俺には十分な勇気。
そんなやり取りの直後、バーの扉が開き、待ち人が姿を見せた。
「………あ、陽翔!」
「郁弥………」
郁弥はすぐに俺の姿を見つけると、にこやかに駆け寄ってカウンターの隣へと腰掛ける。
「良かった。無事だったんだね」
「う、うん…」
「巻き込んでごめん。何かあったらどうしようって………。連絡もらえて嬉しかった」
捲し立てられる言葉と握られた手に圧倒されて言葉を失った俺に、助け船を出してくれたのは藍澤だった。
「――いらっしゃいませ。お客様、お飲物はいかが致しましょう?」
「あ、そっか。ええっと……………あれ、貴方あの時の………?」
仮面をしているから自信が持てないのか、郁弥は窺うように問う。
「ええ、先日はどうも」
ニコッと微笑んだ藍澤を見て、そんな顔も出来んのかと内心ツッコミを入れた。
いやそりゃ出来るか、一応接客業だしな…。
一応俺も客なんだけど……。
でも助けてくれたことには感謝かな。
「お飲物は?」
「あ、すみません。えっと……じゃあ陽翔と同じものを」
「かしこまりました。少々お待ちください」
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