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遅咲き_44
藍澤、なんか怒ってるけど俺だってムカついてるし。
ぶつかり合った視線を外さずに座っていた席へ戻ると、藍澤は小さく溜め息をつく。
何だかそれにもムカついて、俺はカウンターに向けて両手を広げた。
「長谷しゃん、ぁやくして………長谷しゃんと、ぁえる…!」
「ん?ふふ、いいよ。ちょっと待ってて、着替えてくるから」
どうだ、と藍澤を見やれば送られてくるのは冷ややかな目。
「てことで藍澤くん、閉店作業は宜しくね」
「長谷、ちょっと待っ――」
「陽翔くんは僕を選んでくれたんだし、君は以前、勝手にしろと僕に言った。彼が君のモノでないなら、止める権利なんてないだろう?」
勝ち誇ったように裏に回っていった長谷さん。
残された藍澤は小さく舌打ちをすると、俺を睨んだ。
「何らよ?もんくあんのぁよ…?」
「お前……………いや、いい。勝手にしろ」
隣に腰掛けた末松さんは声を潜めて「まずいんじゃないか」と言ってきたけど無視した。
長谷さんはすぐに戻ってきて「お待たせ」と俺の前に立つ。
「ん?どうしたの?」
そう言えば仮面をしてない長谷さんって初めて見る。やっぱ綺麗な顔してたんだな……。
藍澤とはまた違うタイプのイケメンだなぁ……。
藍澤って格好良いけどちょっと冷たいイメージが強いのに対して、長谷さんってほわほわしてる感じ。
例えるならそう、絵本の中の……。
「王子しゃま、みらぁいら……」
「え…………ふっ、ははは、うん。いいよ。じゃあ今日は陽翔くんの王子さまになってあげよう」
そう言って長谷さんは手を差し出した。
「はい、お手をどうぞ」
その手を取ると優しく握られて肩に腕を回された。
「一人じゃ歩けないでしょ。体重掛けていいから」
「ぅん………」
「じゃ後は宜しくね、藍澤くん。お疲れ様」
支えられながら店を出る直前、最後に見た藍澤の視線が少しだけ縋られているように感じて、それでも口から言葉は出てこなかった。
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