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遅咲き_47
鼻先が擦れる距離で長谷さんは挑発的に笑う。
「本当に焦らないね。そんなに自信あるんだ?」
「ある。もし本当に長谷さんが悪い奴なら、無理矢理でも藍澤が引き留めてるだろうし」
「それって僕って言うよりは、藍澤くんを信用してるって聞こえるなぁ」
あーあ、と声を漏らしながら長谷さんは俺の横に倒れるように寝転がった。
「つまらないなぁ」
「俺の直感当たり?」
「さあね。油断してるといつでも食べちゃうよ?」
「長谷さんって藍澤とは違う捻れ方してんだね」
「そんなつもりはないよ」と言いながら長谷さんの顔からは笑みが消え、ゆっくりと瞼が閉じた。
「寝よっか。まだ起きるには早すぎるよ」
「いや、俺帰るよ。朝方仕事あるし、これ以上迷惑掛けんのも悪いし」
身体を起こしベッドを抜けようとして手を掴まれる。
「何?」
「君の言う王子さまってやつをやってあげたんだし、今度は陽翔くんが僕の王子さまになってよ」
「はぁ……?」
「僕ね、人肌がないと眠れないんだ。仕事行くまででいいから一緒に寝てほしいな」
それはつまり……。
「礼をしろってこと?」
「さっすがー、話が早いね」
いつもの笑顔を引っ提げた長谷さんは俺に向けて両手を広げてみせる。
「おいで、おいで」
「………隣で寝るだけならいいですよ」
「えー……まあ、いいか。じゃあどうぞ」
おいでと言いたげにベッド上で長谷さんの手が跳ねた。
「……お邪魔します」
「どうぞどうそ」
再び寝転がったベッドで、隣に横たわり目を閉じている長谷さんに視線を移す。
「ほんとに人肌ないと寝れないわけ?」
「うん、本当」
「じゃあ普段は?」
「適当に相手探してる。眠りたい時はね」
「虚しくね?」
「分からないなぁ。そんな風に考えたことなかった」
それきり口を閉ざしてしまった長谷さんから規則正しい寝息が聞こえてきたのは、ものの数分後のことだった。
寝るの早……。疲れてんだろうな。
「はぁ……何してんだろ、俺」
くだらない意地を張って、藍澤をはね除けて……。
「呆れてんだろうな、アイツ………」
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