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遅咲き_48
何となく顔が会わせづらくて、バーに顔を出さずに三日が経過した。
郁弥からは何度か誘いの連絡が来ていたけど忙しいを理由に断った。当然藍澤からの連絡なんてあるわけない。
それでもこうして久々に赴いたのは、いつの間に登録したのやら長谷さんから「大事な話がある」と連絡を貰ったからだ。
どうしても直接言いたいからと一切内容を教えてもらえず、こうして赴いたわけだけど……どうもドアを開ける勇気が出なくて、かれこれ十分はこうして立ち尽くしている。
通いなれたはずなのにな………。
「はぁ………よし、行くぞ」
うだうだしたって始まんないし、ここは男らしく堂々と。いつも通りに……。
意を決してドアを開く。
「――いらっしゃいま……何だ、お前か」
「どーも……」
藍澤は言葉の途中で俺に気付くと、その視線を外した。
居るのは分かってたけど、んなあからさまに目背けなくてもいいじゃん…。
平日のこの時間、店内はいつものごとく空いていて、俺は馴染みの席へと腰掛ける。
目を背けられたせいで気まずさが増して、注文さえ出来やしない。
どうしたもんかと目を伏せていたら、飲み慣れたカクテルが静かに置かれた。
「これでいいだろ?」
「あ、うん…………」
「……忙しいんじゃなかったのか?」
「え……」
続けられた問いに思わず顔を上げたけど、藍澤は自分の手元を見つめたままで全然目が合わない。
「お前の友達が店に来ては嘆いてたぞ」
友達……郁弥かな……。
そっか、一人でも来てんだな………。
「まあ。今日は長谷さんに呼ばれて………って、あれ?長谷さんは?」
店内見回しても肝心の長谷さんの姿が見当たらない。
「休みだぞ、アイツなら」
「え!?うっそ!?」
も、もしかして………。
「俺、騙された………?」
え、でも何で………?
「忙しい中、わざわざアイツに会いに来るなんて随分仲良くなったんだな」
「いや、別にそういう訳じゃ……」
「どうだかな」
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