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遅咲き_50

掴まれた手に力が入って、思わず顔をしかめた。 それでも郁弥の目は見れない。 「陽翔……」 「………ごめん。だって…だって俺……」 「………分かった。じゃあそのままで良いから聞いて」 腕を引いてみても郁弥の手はびくともしない。 「僕ね、藍澤さんのこと好き……みたいで……」 「………っ……………」 驚きはない。ただ息が苦しい。 「でも僕は陽翔も藍澤さんが好きなんだって思ってる。だから……だからこそ陽翔には隠していたくなかった」 「何それ………」 「陽翔のこと親友だと思ってる。だから対等でいたい、向き合いたい。せっかく取り戻した友情なのに、また手放すなんて嫌だ」 「…………………」 「僕は言った。今度は陽翔の気持ち聞かせてよ。お願い、逃げないで」 手の力がゆっくり緩んで、腕が解放される。 「俺は……俺だって郁弥のこと親友だって思ってる。大切……。なのに俺、何でかスゲームカムカして、めちゃくちゃ嫌な奴になって……だから……」 「うん。陽翔はさ、ヤキモチ妬いたんでしょ?」 「………ヤキモチ?」 「僕が藍澤さんと仲良くしてるのが嫌だったんじゃない?」 「……う、ん……………?なのかな………?」 仲良くってか藍澤がニコニコ愛想良くしてるのが腹立つと言うか……。 「そうだよ。それはさ、陽翔が藍澤さんに恋をしてるからでしょ?」 「……………え?」 「好きなんだよ、藍澤さんのこと」 「……好き…………?俺が、藍澤を………?」 目の前の郁弥だけが一人納得して微笑みを見せる。 「じゃなきゃそんな風にならないよ」 「でも、俺……好きってよく分からないし、今まで人を好きになったことなんて…ない……のに…」 「じゃあ初恋だね」 ………初恋。 その単語の意味がじわじわと胸に広がって、その熱はやがて頬を熱くした。 「なっ……何だよ、それ!そんなガキみたいじゃん…まるで………」 「ふふ、陽翔今凄く可愛い顔してる。真っ赤だよ」 「み、見んな!」 顔を背けても郁弥が回り込んで来て、それを二、三回繰り返すうちに俺は観念して郁弥と笑い合った。 「応援するからね」 「でも郁弥だって…」 「僕は良いんだ。僕は陽翔に幸せになってほしいよ。それに………」 「それに?」 「ううん、これ以上は余計なお世話だから止めておくね。」 「気になる」 「だーめ!あとは自分で頑張って!」 郁弥が言わないと決めたのなら、きっとそれ以上何を言っても絶対教えてくれない。昔からそういう奴だから。 「……ごめんな、郁弥」 「謝られるようなことされてないよ。今度は逃げないでくれてありがとう」

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