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αとΩ_1
side ☓☓☓
――久し振りによく眠れた。
夢さえ見ることなく、朝まで一度も目が覚めずに、安らかに。
起きた時、側に置いた温もりは姿を消していたけれど目覚めも悪くなかった。
人肌がないと眠れない。
それでも特定の相手を作る気はない。
そんな僕の選択はただ一つで、眠りたい時だけ相手を見つける。
もちろん選ぶのも後腐れのない相手ばかり。
僕はそれで満足していたし、それに対して何かを思うこともなかった。
なのに、あの子は虚しくないかと僕に問い掛けた。
「虚しいかぁ……」
僕が見る限り、あの子は恐らく同僚の藍澤くんが好きなのだろう。
毎日毎日飽きもせず店に通い、無愛想な彼に笑い掛けている。
何だかんだと相手をする彼も好意はあるはずなのに、それを表立って見せない。
面白い二人だ。
興味をそそられて、少しちょっかいを出した。
その過程で得られたこの安眠は思わぬ収穫。
「今度、お礼でもしようか」
そう思っていたけれど、ここ最近陽翔くんの姿を見掛けなくなった。
その代わりお友達だと言う郁弥くんをよく見掛ける。
郁弥くんは藍澤くんを好きなようで、何となく彼が姿を見せなくなった理由を察した。
どうしたもんかと僅かながら気にかけていたら、思わぬ方向から提案が飛んできて、僕は驚きながらも了承の返事をした。
提案の主は郁弥くんで内容は陽翔くんを呼び出してほしいと言うもの。
あえて理由は聞かず、約束通り僕は陽翔くんを呼び出して、こっそり彼らの動向を窺っていた。
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