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αとΩ_2
「……ごめんな、郁弥」
「謝られるようなことされてないよ。今度は逃げないでくれてありがとう」
美しい友情物語なのだと思う。
けれど………。
二人が別れ、郁弥くんが一人になったのを見計らって僕は姿を見せた。
「損な役回りだね」
「ああ、長谷さん。……そんなことありませんよ」
郁弥くんは存外柔らかな笑顔を僕に向けた。
「僕には君が可哀想に見えるけど。好きだったんでしょ、藍澤くんのこと。」
「まあ好意を寄せていたのは確かですけどね。僕の周りにああ言うタイプのαの方は居なかったので、珍しさも相俟って。でも陽翔の方が大切だから」
「ふーん、そういうもんか」
「それよりも、僕は長谷さんに謝らないと」
何をだろうと首を傾げる僕に彼は頭を下げた。
「すみませんでした。長谷さんこそ陽翔のこと気になっていた風だったのに。手伝わせてしまって…」
「ああ、そう言うこと。全然いいよ。確かに興味はあったけれど好きだとか僕のモノにしようとか、本気でそんなこと思ってた訳じゃないから。暇潰し程度に遊んでただけ」
まあでも心地良い睡眠だったし、もうちょっと遊びたい気持ちもあるけれど。
「そうなんですか?僕はてっきり……」
「てっきり?」
「いえ、何でも……」
「………君はさ、どうするの?」
「?」
「例の暴力彼氏の所にでも戻るの?」
詳しくは知らないけれど郁弥くんと陽翔くんがバーで話していた断片的な内容を要約すると、郁弥くんの彼氏とやらはあまり良い人ではないようだった。
「戻ると言うか……僕は恐らく捨てられた身なので……」
「捨てられた、ね。君はさ、そう捉えるんだね」
「……?はい、そうですよ。だって僕はΩで、彼はαでしたから。捨てられるのはΩである僕です」
「…………そうなんだ」
やっぱり僕には……。
「君が可哀想に見えるよ」
「Ωだからですか?」
「ううん。………ねえ、君のお願いを一つ聞いてあげたから、僕のお願いも聞いてくれないかな?」
「いいですよ。僕に出来ることなら…」
「僕ね、人肌がないと眠れないんだ。だからたまにで良いから、僕と一緒に寝てくれないかな?」
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