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αとΩ_5
「Ωはαを怖がるもんだよ」
「………昔、初めての発情期で襲われたことがあります。確かにその時は怖かったですが、今は怖くはありません」
ハッキリと告げた僕に長谷さんが興味を示す。
「どうして?」
「Ωはそう言うものであると理解しているからです」
「そういうもの?」
「与えられる社会地位。僕らは所詮、慰めものとして生きていくしかありませんから」
そう言った僕に、長谷さんはテーブルヤシに向けたような笑みを見せた。
「……どうしてそんな風に笑うんですか?」
「……どうしてだろう。君を見てると凄く………いや、何でもないよ。少しお喋りが過ぎたかな。今日の目的はお喋りじゃないしね」
残っていたお茶を飲み干して、長谷さんはソファーから立ち上がる。
慌てて僕も倣うようにお茶を飲み干した。
それを待って移動した長谷さんはリビングから続く扉を開くと、中へ入る。
僕も続いて中へと入ると、部屋には広いベッドが一つ置かれていた。
「一人暮らしなのに大きいですね」
「一人で使うことはないからね。郁弥くん、着替えは?」
「あ……そういえば………」
着替えとか全然頭になかった……。
そっか、セックス目的じゃなくて眠るんだもんね……いつもなら裸になればいいし、必要ないと思っちゃってた……。
「えっと……」
「うーん……僕のじゃ大きいけど我慢してくれる?」
「あ、はい。むしろすみません……」
「んーん、僕少し潔癖だからさ、ベッド汚したくないんだ。ちょっと待ってて」
長谷さんは部屋にあったクローゼットからシンプルな白いTシャツと紺色のスウェットを取り出して、僕へと手渡してくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
渡されたそれを素直に受け取って、着ていた自身の服に手を掛ける。
「――………それ」
「え……?」
聞こえた声に長谷さんの視線が身体に注がれていることに気が付いた。
「あ……すみません。お見苦しいもの」
男同士、裸を見られて恥ずかしいことはないけれど、治りきっていない傷痕は見ていて気持ちの良いものではなかっただろう。
手早く渡されたものに袖を通して、それを隠したけど長谷さんの表情は硬い。
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