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不能_1

side α 様子が変だ。 カウンター越しに座る七瀬に目を向けるが、視線が合うことはない。 煩いぐらいに話し掛けてきていた奴がだ。 長谷と帰ったあの日から顔を見せなくなったと思ったら、先日不意に現れ、言い合いになり店を飛び出していった。 あれから前と変わらず店には顔を出すようになったが、どうも様子が変だ。 最初は言い合いしたことを怒っているのかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。 「………おい」 「え!?な、何!?」 「氷、溶けきってる」 グラスに掻いた汗はテーブルへと落ちきって、氷は姿を消している。 「あ………」 「作り直すか?」 「ううん、勿体ないし、いいや」 味が薄いであろうこと間違いないそれを七瀬は煽った。 空になったグラスを下げて、新しいカクテルを用意する。 差し出せば「さんきゅ…」と小さな呟きが返ってくるが、視線は上がらない。 こうして店に来るってことは怒っているわけではないんだろうが……。 「……今日はもう上がりだから着替えてくる。外で待ってろ」 「え、そうなの?じゃあ俺、帰るよ」 「聞こえなかったのか?待ってろって言ったんだ」 「いや、でも………」 「明日、休みなんだろ?」 コイツが俺のシフトを熟知しているように、俺だってコイツのシフトを嫌でも知っている。 「そうだけど……」 「何だ?それとも――――長谷でも呼ぶか?と言い掛けて口を止めた。 この前言い合ったばかりだ。 突っ掛かっていくのは得策とは言えない。 「……とにかく待ってろ。いいな」 返事は待たなかった。 手元のグラスを片して、俺は足早に裏へと回った。

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