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不能_3

立ち寄ったコンビニでも七瀬は口を開かず、正直不気味なほど大人しかった。 以前は疫病神並みにおにぎりやらジュースやらをタカってたくせに。 ただ一つコンビニに入る前、逃げないから手を離せと抵抗を示した。 買い物をするには不便だし、何より逃げられても捕まえる自信があったから掴んでいた手首を離した。 宣言通り逃げることはせず、七瀬はこうして俺の後ろについて歩いている。 「何かいるか?」 「………いい、いらない」 「……………………」 何を言っても無駄だな……。 自分の分の食事と適当にジュースをカゴヘ放って、会計を済ませる。 それからの帰路は互いに無言だった。 辿り着いた家の玄関を抜けてリビングへ続く廊下で、後ろにいた七瀬の動く気配が止まる。 振り向けば靴さえ脱がず、俯いたまま玄関に佇んでいた。 「……どうした?」 「……や、やっぱ俺……………」 表情は見えない。代わりに握られた両手が目に入る。 手にしていたコンビニの袋を壁際に置いて、七瀬の目の前へ足を移動させる。 「………七瀬」 小さくビクついた肩にソッと手を乗せた。 「……こっち見ろ」 「………やだ」 「お前、変だぞ」 「……………………変?」 「いつもの調子はどうした?」 「……いつも…………俺、どーしてたっけ……?」 小刻みに揺れる肩とほんのり色付く耳に気が付く。 「俺……俺、アンタと……」 「………?」 「どーやって、接してたっけ………?」 肩に乗せていた両手で七瀬の頬を包んで、俯いたままの顔をゆっくりと持ち上げた。 思ったよりも小さい顔は両手で簡単に包み込めてしまう。 「………どうしてそんな表情(かお)してる?」 「そんなって……?」 「泣きそうな表情(かお)」 眉間に寄るシワも溢れるギリギリで溜まる涙も、俺には意味が分からない。 コイツが泣くほど嫌なことを俺がしたんだろうか。 「……っ…………やっぱやだ!俺、帰る!」 「おい――」 俺の手を払って身を翻した七瀬はドアノブへと手を伸ばす。 それよりも一瞬早く、その背中を引き寄せた。 「――帰さない」 「やっ、離――」 「――離さない」

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