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不能_4
side Ω
心臓が煩い。
背中から伝わる体温がむず痒くて、落ち着かない。
いや落ち着かないのはもっと前から……。
郁弥は俺が藍澤を好きなんだって言った。
そしたら顔を見るたびに心臓が煩く鳴るようになって、それなのに会いたくて………。藍澤が言った通り変なんだと思う、自分でも。
「か、帰る!離せってば!」
「………ダメだ」
「な、何で…!?」
「そんな表情したまま帰せるわけないだろ」
回る腕は力強くて振りほどけない。
密着する背中が熱くて、じわじわと熱が身体に広がっていく。
「泣くほど嫌なことでもしたか?」
「………してない、けど…………」
「じゃあ何なんだ?」
そんなこと俺が知りたい。
「俺、変だ……っ…」
「………変だな」
「…アンタの顔見ると、何か苦しい………」
息が苦しい。言葉に詰まる。
それなのに近付きたい。
これが、『好き』って気持ちなんかな……?
「でも、アンタが見てくれないと、ムカつく……」
「……矛盾してんだろ、それ」
「分かってるよ。だから変だって言ってんじゃん……馬鹿」
「馬鹿はお前だろ」
肩に重みが乗っかって、藍澤が額を当てたのだと悟った。
「お前、長谷が好きなんじゃねぇのか?」
「え、長谷さん?何で?」
「王子さまだとか何だとか言ってたろ…」
そう言えば長谷さんがそんな事言ってたかも……?全然覚えてないけど……。
「全然好きじゃない!」
「俺より長谷のこと選んだくせに? 」
「それは……………その、ムカついたんだってば……」
「何に?」
「郁弥にばっかニコニコしてるアンタに!」
しまったと気付いたときにはもう口走っていて、取り返しがつかないのならと気持ちが自棄になる。
「俺だってもっと笑った顔見たいし、沢山話したいし、末松さんに負けないぐらいアンタのこと知りたいって思ってんの!」
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