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不能_14
以前に比べて僕に対する態度も柔らかになったと思う。
これも彼の影響なのかな………。
そんな事を考えていたら店の扉が開いて、ちょうど陽翔くんが顔を覗かせて、続いて郁弥くんが姿を見せた。
店内に入った二人は、並んでカウンターへと腰掛ける。
「いらっしゃい、今日は早いね?」
僕の問いに陽翔くんは早上がりだったのだと笑って返す。
目を移した郁弥くんは休みだったらしく、たまたま店の近くで合流したらしい。
二人が頼むカクテルは決まっていて、把握している僕らは各々それを作り始める。
藍澤くんは陽翔くんのを、僕は郁弥くんの分を。
「それにしてもこの店っていつも空いてるよな?こんなんで大丈夫なわけ?」
「まだ混むには早い時間だからな」
「遅い時も居なくね?」
「お前が来る時間は遅すぎるんだ。ピークはもう少し賑わってる」
「ほんとかぁ?強がってない?」
なんて談笑を始める二人を、郁弥くんは静かに見つめていた。
出来上がったカクテルを差し出して、彼にだけ聴こえるよう声を潜める。
「良かったね、上手くいって」
「……はい。長谷さんのお陰です」
「僕じゃないでしょ。君のお陰だよ」
「そうかな。だったら嬉しいな」
そう言ってグラスに伸ばされた腕と服の隙間から、赤黒い痣が垣間見えて、僕は思わずその手を取った。
「え、あの………」
「…………………」
驚いて丸くなった目が僕を映した。
隣に座っている陽翔くんも、藍澤くんだって怪訝な顔をしている。
「長谷、さん………?」
皆が驚いてる。
手を離してあげないと。
「えっと…………」
「………………テーブルヤシ」
関係ないだろうに。僕なんか。
「…………?」
「また、見に来ない………?」
そう思うのに僕の口は、勝手に言葉を呟いていた。
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