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不能_17
血を分けたキョウダイであっても、バース性が異なるケースは珍しくない。
僕と姉さんもそうだった。
僕はαで、姉さんはΩ。
それが分かった時、僕は姉さんを守ろうと誓った。
悲しませる、苦しませる全てのものから……。
でも結局彼女が僕に縋ることはなかった。
「当たり前なんかじゃない……拒絶していい。逃げていい」
「…………………」
「お願いだから、辛いって言ってよ…………」
ベルトに掛かっていた郁弥くんの手が力無くベッドへと落ちていく。
「それは長谷さんがαだからそう言えるんです。逃げ場なんかない。手を伸ばしても誰も取ってくれない。辛いと溢したところで誰の耳にも届かないんです。それがΩって生き物なんですよ」
「…………僕が聞く。僕が手を取る」
ベッドに沈んだ手を取った。
「…………それじゃだめ?僕なんかじゃ、やっぱりだめなのかな……?」
何も出来ない僕なんかじゃ……だからきっと姉さんも……。
「そんな言い方はズルいです……泣かないでください……」
「君が辛いって泣いてくれたら、泣かないよ」
「だから、ズルいですってば……」
おずおずと握り返される手。
「僕の声、届きますか……?」
「うん」
「辛いって言っても怒られませんか……?」
「うん」
「助けてって、手を伸ばしてもいいですか……?」
「うん。そしたらこうやって何度でも掴んであげるから」
あの時掴めたかった分、今度は離さないように。
「……っ……めんなさ、い……」
少しの間の後、息を詰める音と小さな謝罪が耳に届いた。
「……本当はずっと、ずっと苦しくて、辛くて、逃げたくて………本当はずっと…幸せになりたいって思ってた……っ……。痛みだってある、屈辱だって感じる。僕は……僕も……人間なんです……」
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