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不能_18
手に落ちた雫は僕のものじゃない。
「大丈夫。届いてるよ」
「……っ………う、…ぁ…」
「泣いたの久しぶり?」
コクリと頷いて、更に瞳から雫が落ちる。
「そっか。ねえ、もう戻っちゃ駄目だよ?こんな怪我させる男の所になんて行っちゃ駄目。分かった?」
「うっ……は、ぃ……」
「ん、良い子。何かされそうになったら受け入れないで。拒んで、拒絶して、ここに逃げておいで」
「い、いいですか……っ…ここに、逃げても……」
「泣かせた責任は取らなきゃね。それに…」
掴んでいた手を引いて、懐に抱えた身体ごと一緒にベッドへと沈んだ。
「そんな男の相手をするぐらいなら僕の添い寝の相手をしてほしいな。君が居るとよく眠れるから」
「……長谷さんはどうして僕なんかに優しくしてくれるんですか?」
最もな問いに僕は瞼を閉じて、彼女の姿を思い浮かべた。
「似ていたから。昔、好きだった……僕には助けてあげられなかった人に」
「…………好きだった人ですか?」
「うん。僕ね、姉さんが好きだったんだ。血の繋がった実の姉が。……軽蔑する?」
見下げた懐で郁弥くんはふるふると首を横に振った。
「僕はαで姉さんはΩだった。僕は姉さん子でね、小さい頃からよく後ろをついて回ってたんだ」
なんか少し意外ですね、とクスクス笑い声が聞こえてくる。
「そうかな?姉さんは優しくて、僕はその優しさに甘えてたんだ。自分のバース性を知った時は誇らしかった。これで姉さんを守ってやれるってね」
「……………守る………」
「丁度その頃、姉さんには初めての恋人が出来たんだ。αのね。もちろん悔しかったし、嫉妬もしたけど……姉さんが幸せならって見守るつもりだった」
「……もしかして」
察したのか郁弥くんは顔を歪める。
「そう。姉さんは隠していたけど、その身体には隠し切れない傷痕が知らず知らずに残されてた」
「………………」
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