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不能_20

部屋に差し込む日差しの眩しさに目が覚めた。 「………朝………?………――!?」 ぼんやりとしていた頭が、一緒に眠ったはずの体温を失った事に気付いて急にクリアになる。 飛び起きて寝室を見渡しても姿はない。 ………居ない。 喪失感に駆られて、慌ててベッドを抜け出した。 リビングに通ずるドアを開けて、一番に目に飛び込んできたのは窓辺でテーブルヤシに水をやる後ろ姿だった。 ………………居た。 安堵した束の間に、郁弥くんが僕に気付いて「おはようございます」と微笑んだ。 「おはよう。早いね」 「ふふ、もうお昼ですよ?」 言われて時計見ると針は確かに正午を過ぎている。 「――………はは、本当だ」 「よく眠ってらっしゃったので起こすのは忍びないなと思って……」 「うん、ありがとう」 「あと勝手に水やりしちゃったんですけど……大丈夫でしたか?」 「大丈夫だよ。今の時期はたっぷりあげていいんだ」 傍に近付いて、解説をすると郁弥くんは興味深そうに耳を傾けた。 「………このテーブルヤシね、僕が姉さんに贈ったものなんだ。少しでも姉さんの癒やしになればってね。でも置いていかれちゃった。姉さんが結婚して、家を出る時……僕と一緒に」 「…………………」 「同じだなんて言ってごめんね。本当に同じなのは僕の方だ。僕がこのテーブルヤシを枯らせないのは、きっと傷の舐め合いをしてるから。郁弥くんはこのテーブルヤシが幸せだと言ったけど、そんな事ないよ。この子は可哀想なままだ」 弾いた葉から水滴が落ちていく。 「あの…この前僕にくれるって言ったの、まだ有効ですか?」 「え、まあ……」 「あ、でも貰うんじゃなくて、その………僕も一緒に育てちゃダメですか……?」 「………一緒に?」 「はい」 それは予想外の申し出で、僕はさぞ目が丸くなっていただろう。 「一緒………一緒に、か………」 「あ、嫌だったら言ってください」 「ううん、一緒に育ててくれるの?」 「はい!」 向けられた真っ直ぐな笑顔が、また空白にじんわりと滲む。 鼻唄なんて歌いながら水をやる郁弥くんを後ろから抱きしめてみた。 小柄な彼はすっぽりと腕に納まってしまう。 「は、長谷さん?」 「育て方は僕が教えてあげるね」 「…はい、ありがとうございます」 「テーブルヤシはね、寒いのが苦手なんだ」 「へぇ……ふふ、長谷さんみたいですね」 「そうだよ。だからずっと、温かな場所に居させてね」

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