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不能_21
side Ω
「ビックリしたよなー」
「……何が?」
「何がって長谷さんと郁弥だよ」
俺の言葉に隣に座る藍澤からは「ああ」と気のない返事が返ってくる。
例のごとく藍澤の仕事終わりに家へと押し掛けて、晩ご飯を済ませた藍澤と並んでソファーでひと息を着いた今。
俺の興味は二人に注がれていた。
「この前バーで妙な空気醸し出したと思ったら、最近は二人で帰っちゃうしさ。今日だってそうだったじゃん?」
「……………」
「何がどーしていつの間にそういう事になってた訳?藍澤は気付いてた?」
「いや」
「つ、付き合ってんのかな?なあ、どう思う?」
俺の問いに大きな溜息を溢した藍澤は読んでいる本から目を逸らさずに「知らん」と一刀両断してくる。
「何だよ、ちょっとは興味持てよー」
「アイツの恋路なんか興味ない。お前こそ他人の恋愛話なんて楽しいのか?」
「郁弥は他人じゃなくて親友なの!もしかしたら親友の将来がかかってるかもだし、気になるに決まってるじゃん」
そう言うもんかと呆れながら本を閉じた藍澤はソファーから立ち上がる。
「明日も早いんだろ?寝るぞ」
「あ、うん……」
曲がりなりにも恋人と呼べる関係になって変わったことがいくつかある。
これもその一つなんだけど……。
「今日も一緒に寝る?」
「毎日訊くな。いい加減慣れろ」
「だってさぁ……」
同じベッドで寝るようになった。
発情期だからとか風邪だからとか、そんな特別な理由は必要ない。
「ほら」
なかなか立ち上がらない俺に差し出される手。
慣れない。
嬉しくないわけじゃないけど、むず痒くて落ち着かなくて、そんで………やっぱ恥ずかしい。
「七瀬?」
「……ん」
重ねた手を握る力は優しいし、俺を呼ぶ声音も柔らかい。
近付いても突っぱねられない。抱き付けば自然と背中に腕が回る。
全部が全部、恥ずかしい……。
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