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不能_26

「え、司がいつまでΩを抱いていたかって?」 目を丸くして俺の問いをご丁寧に復唱した末松さんは、落ち着けるように珈琲を一口啜る。 以前、末松さんに連れて来られたカフェへ今日は俺から呼び出した。 「うーん………正直に言うと分からないんだ。俺も音信不通になってしまっていたし……再会した時にはもう、あんな状態になっていたから……」 「そっか……」 末松さんなら何か分かるかなって思ったんだけどな……。 美味しいはずのティラミスを口に含んでも、何だか物足りない。 「……司と上手くいってない?」 「ううん。むしろ逆。アイツすげー優しいの、恥ずかしいぐらいにさ。まあ、ちょっと意地悪な所はあるけど、でも何か大切にされてる感があるんだよな」 「前にも言ったけど司は根が優しいから」 「さすが自称親友。けど、その内俺の方が藍澤こと理解してみせるから」 「ふふ、さすが恋人、だね」 いつぞやの会話からこんなにも色んなことが変わるなんて想像もしていなかった。 「じゃあこれは司の事で、俺が七瀬くんに出来る最後の助言かもしれないんだけど」 末松さんは持っていたティーカップをテーブルへと置いて、少し寂しそうに笑った。 「司はさ、きっとずっとブレーキを掛けてるんだと思うんだ」 「ブレーキ……?」 「司は優しい。だからきっと自分のやった事に対して後悔してる」 「………………」 「Ωを抱く事は不幸にすることなんだって、心の何処かで思ってるんじゃないかな?」 「…………不幸」 「でも君なら…七瀬くんなら、そうじゃないんだって司に教えてあげられるんじゃない?」 「……………」 「αに愛されるΩがどれだけ幸せなのか、それは君にしか伝えられない事なんじゃないかな」 俺……俺にしか、伝えられない……。 「……どーしよ、今凄く藍澤に会いたくなった」 「うん、良いと思うよ。少し強引なぐらいが司にはちょうど良いのかもね」 「――ごめん!俺、ちょっと行ってくる!お代付けといて!」 ほんのり甘いティラミスの最後の一口を感じながら、俺は店から駆け出した。 だから、 「司の事なら紗奈よりも俺の方が知ってる自信あったのに……少し悔しいなぁ」 なんて言う末松さんの呟きは俺の耳には届かなかったんだ。

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