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不能_27

まだ仕事中だと分かっていながら、バーへと駆け込んだ俺に藍澤も長谷さんも、疎らに居た客も驚いた表情を浮かべた。 「他の客に迷惑だろ。もう少し静かに入って来い」 呆れながら言う藍澤は落ち着けと一杯の水をカウンターへと差し出してくれて、長谷さんは興味津々と「なになに、事件?」と身を乗り出してくる。 「ん……っ…はぁ……さんきゅ」 全速力で走ったおかげで喉は確かにカラカラで、貰った水がめちゃくちゃ美味しい。 「で、今度は何だ?」 「あ……。ね、今日って何時まで?」 「仕事?いつも通りのシフトだから今日はラストまでだぞ」 「そ、そっか。そうだよな……」 もちろん把握してなかったわけじゃないし、分かってはいたけど今すぐ二人きりになりたい俺としては落胆してしまう。 「どうかしたか?」 「いや、その……」 「変に隠し事するなよ。後々面倒になる方が厄介だからな」 「うん、大したことじゃないんだけど…ちょっと……早く二人きりになりたかったなって思って」 声量を落としたのは俺なりの配慮。 藍澤まで届くか微妙だったけど動きが止まった所を見ると、無事に聞こえたみたい。 因みに藍澤の隣にいた長谷さんにもちゃっかり届いたようで、達者な口笛が鳴った。 「陽翔くん大胆だねぇ」 「長谷、煩い」 「藍澤くん、照れない照れない。あ!」 わざとらしく思い立ったような身振りを見せた長谷さんは、藍澤の肩へと手を掛けた。 「僕もうすぐ上がりなんだけど、交代してあげよっか?」 俺としては願ってもない申し出に、思わず期待の眼差しを藍澤へ向けた。 目があった藍澤は溜め息とともに肩を落として、長谷さんへ向き直る。 「………対価は?」 「嫌だなぁ、これは善意だよ」 「お前に借りは作っときたくない。何かあるんだろ、言えよ」 「はは、なーんだ。お見通しかぁ」 肩を竦めた長谷さんは藍澤の耳元で何かを囁き、にこやかに「よろしく」と告げた。 「……まあいいか。着替えてくる」 何を言われたのか俺には分からなかったけど、二人の間で交渉は成立したらしく藍澤は裏の方へと向かっていく。 「長谷さん、ありがとうございます」 「ん?いいよ、いいよ。陽翔くんにもちょっと協力してもらうし」 「協力?」 「はは、何でもないよ。ほら、行った行った」 どうせ訊いたって教えてもらえる確率は限りなくゼロに近いから、促されるまま俺は店の裏口へと回った。

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