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不能_28
裏口で待つこと数分、着替えを済ませた藍澤が姿を見せた。
「…お疲れ様」
待っていた俺の頭を軽く撫でて、藍澤は帰路につく。
いつもの道、いつもの会話。
だけど心臓はいつもより煩い。
道中コンビニへ立ち寄らなかった所を見ると、今日は自炊の日らしい。
「腹減ってるか?」
家に着くなり藍澤は俺に問う。
俺はリビングへ続く廊下で先を行く広い背中に、飛び付くように抱きついた。
「――っ………七瀬?どうした?」
足を止めて、回した腕を無理矢理解いたりはせず、首だけを振り向かせて藍澤は俺を呼んだ。
「俺……アンタと、」
「?」
「アンタと…………セックスがしたい」
「………………は?」
「だから!藍澤とエッチしたい……」
数秒の沈黙。
それから藍澤から溢れる小さな溜め息。
「何馬鹿なこと言って――」
「――好きな人とシたいって思うのは普通だろ」
回した腕に更に力を込めて、ぎゅっと抱きつく。
「……けど俺は………」
「藍澤とシたい。藍澤じゃなきゃ嫌だ。アンタとじゃなきゃ、幸せになれない」
「……………」
「今まで藍澤が抱いてきたどのΩ達よりも、俺は自信を持って言えるよ。アンタが俺を抱いても、俺は絶対不幸になったりしない」
「……………」
「アンタは言った。αに愛されないΩがどれだけ惨めな思いをするのか全然分かってないって。でもαに愛されるΩがどれだけ幸せなのかを、アンタは全然分かってないんだな」
腕の拘束を解いて、黙り込んだ藍澤の前方へと回り込む。
「人助けのセックスと愛のあるセックスは全然違うよ」
「…………」
「俺、アンタに抱かれるの何度想像してもさ、幸せな未来しか見えないんだ。ほんと笑っちゃうぐらい」
「…………」
「だから大丈夫だよ。怖がんなくて、大丈夫」
両手を広げて、口を噤む藍澤に笑ってみせる。
「アンタは俺を、――絶対幸せにしてくれるから」
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