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不能_29

真っ直ぐ向けられる目から視線は決して逸らさない。 「だから、俺と……セックス、してください」 決心が鈍らないように、言い切った唇を噛み締めた。 数秒の沈黙を破ったのは藍澤だった。 「…………俺がお前を抱いたら、お前は本当にΩとしての運命を受け入れることになる。それでもいいのか?」 「…………………」 「お前は怖くないのか…………?」 ――ずっと、ずっと怖かった。 自分がΩであることが。 怖くて、憎くて、悔しくて………運命なんて本能なんてクソ喰らえだって何度もそう思った。 αになんて乞うものかって、ずっと思ってた。 「……仕方ないじゃん」 「?」 「どんな感情よりもアンタのものになりたいって思っちゃったんだから」 「………………」 「だから言ってるだろ、アンタは絶対俺を幸せにしてくれるんだってさ。怖いなんて思うわけないじゃん」 微かに藍澤が瞠目して、踏ん切りがついたように肩を落とした。 それからゆっくりと手を差し出される。 それは初めて会った時のように、男に襲われて助けられた時のように。 「……俺に、抱かせてくれるか?」 結局、選択権はいつも俺にある。いつだって藍澤は手を差し出してくれる。 こーんなに受け入れ態勢で両手広げてたってーのにな。 まあ、いいか。 藍澤の手に自分のそれを重ねると、力強く身体を引かれてそのまま抱き竦められる。 「あのさ、もしどーしても勃起しないんだったらさ……お、俺が挿れてもいいけど……」 「お前が俺を抱くって?」 「何だよ……Ωだけど俺も男だし、出来なくはないだろ……」 「ふっ、絵面的にアウトだろ、それ」 「何だよ。自分の方がちょっと体格いいからって馬鹿にすんなよ」 「はいはい、悪かったよ。けど残念ながら杞憂だったみたいだな」 「え……」 抱きしめられたまま更に腰を引き寄せられると、下半身が密着して硬い感触が押し付けられた。 わ、もしかして、藍澤の、勃ってる……? 「勃った……?」 「勃ったな」 「…………何で?」 「お前が幸せになるって言ったから。やっぱり怖いか?」 確かめるように訊かれて、躊躇いなく首を横に振る。 「変かもしんないけど、何か……嬉しいとか、思っちゃったり………」

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