7 / 10

第7話 それもこれも全部特別

 少し、焦っていたかもしれない。 穂村は、ベッドの縁に腰かけて、先崎の肩や腕を優しく撫でながらゆっくりとキスを深くしていった。何度も触れたり離れたり、角度を変えたり甘く咬んだり。 繰り返していくうちに、先崎の気持ちが少しずつ解れていく様が、唇と舌の動きでわかる気がした。おずおずと薄く開いた唇が、自分の唇を食む。差し入れた舌に、舌が絡む。少しだけ腕に力を籠めれば、先崎の体は穂村の体に寄り添うように近づいた。 唇が離れたタイミングで目があって、二人は声にならない忍び笑いを交わした。 「頼みが、あるんだけど」 何ですか?と穂村が首を傾げる。 「お前の背中、見せてほしい」 返事の代わりに目を細くして笑って、穂村は立ち上がった。 ためらいなくTシャツを脱ぐと、先崎に背中を向けた。 「どうぞ?」 首を斜め後ろにひねって声をかけると、先崎が立ち上がって小さく頷いた。 穂村の感覚は、どうしても背中に集中してしまう。あの痣は、背中のどのあたりにあっただろう。鏡越しの記憶を探していると、ひたりと手のひらがあてられた。 「あったかい」 吐息交じりの呟きが聞こえて、背中にあてられていた手のひらは、全体を広く撫でていく。指で痣の輪郭をなぞられるとくすぐったくて、背中が揺れるのを我慢するのに苦労した。 「触られんの、やじゃない?」 「サキさんですから。かっこいいって言ってくれました」 「お前、それよく言うけど、そんなに違う?」 「まるで違います。今だって、学校で生徒はすぐにネタにしますよ。俺がめげないんで、毎年すぐに話題にならなくなるけど」 穂村は、長身で分厚い体を上手く使って、暴れだしたがる生徒たちのエネルギーに微妙に圧力をかけている。若い教師を侮りたがる雰囲気を、作らせない。水泳シーズンが始まれば、痣は嫌でも生徒の目にさらされるが、それすらも利用する。口の悪い奴らが、陰で「赤鬼」と呼んでいることもちゃんと知っている。舐められるよりは、怖がられたほうがいい。 穂村にとって、背中の痣はもはや武器と言っていい。先崎の言葉が、自分を守っている。 「中学生なんて、口ばっかり達者だからな」 先崎の手が、労わるように穂村の裸の肩を撫で、柔らかなものが肩甲骨の下に押し付けられた。 「サキさん、それちょっとドキドキします」 困りますと苦情を伝えても、ふふっと笑うばかりで、先崎は痣へのキスを繰り返す。 「じゃあ、次は俺の番で、いいですか?」 先崎は、返事の代わりに穂村の背中にぎゅっと抱き着いて、首筋の痣をちゅっと吸った。 「……ちょっ……と、もう、ほんとに。知らないですよ?」 焦ったような穂村の声に、先崎は肩をゆすって笑った。 「ギリギリの線を敢えて攻める、みたいになってんな」 冗談きついですよと言いながら、穂村は体の向きを変えて、先崎の額にキスをした。 「……で?」 「さっきの場所を、見せてもらえませんか?」 「……だよなぁ」 先崎は、やっぱり眉間に皺を寄せて、口をへの字に引き結んだ。その顔をのぞき込むようにして、穂村はおとなしく待っている。 「……よしっ」 意を決して、先崎はベルトを緩めてボトムを脱いだ。露わになった腿の傷跡は、いつもと変わらず肌を大きく覆っている。 「……お、俺は、どうしたらいい?」 「座ってください」 穂村は、先崎の肩を軽く押してベッドの縁に腰かけさせると、足元に跪いた。 片手を右膝にあて、もう片方の手を左腿の傷跡にゆっくりと重ねた。ひんやりとした肌は、つるりとしていたりでこぼこしていたりする。細く引き連れた痕も盛り上がった場所も、等しくほかの肌とは違う。さらりとした右足の膝や腿とは、触り心地がまるで違う。 「本当に平気なら、お前の好きにしていいよ」 不意に、頭の上から声が落ちて来た。見上げると、目元を赤く染めた先崎が照れくさそうに下唇を噛んでいた。 「……はい」 穂村は、一番盛り上がっている場所に、唇を押し当てた。そこは、中心が白くて、薄いピンク色が縁どっていて、つるつるしている。先崎は、小さく身じろいだけれど、じっとしていた。許されたと感じた穂村は、その頂点を舌で舐める。 「……っ」 息をのむ声が聞こえたけれど、抵抗は感じなかった。穂村は、でこぼこに舌を這わせてなぞりながら、腿から膝裏に指を這わせ、右足の膝を丸くなでた。 冷たかった肌が、熱くなっていくのがわかる。先崎の手が、シーツを強く握りしめているのが、目の端に映っている。 「……ユ、キ……?」 見上げれば、潤んだ目と顰められた眉が、穂村を誘った。 穂村は、ゆっくりと立ち上がると、先崎とともにベッドに倒れ込んだ。 そのまま覆いかぶさるようにして先崎を抱きしめて、首元に顔を埋めている。嬉しくて、でも、欲情する自分を止められなくて、浅い呼吸を繰り返してなんとか落ち着こうと努力した。 先崎は、その背中に両腕を廻して、色を濃くしている痣を撫でた。その縁をなぞり、背骨を数え、肩甲骨の先端をつつく。 その一つ一つに、穂村の体は熱く反応して、硬く育ったものは隠しようもない。 「サキさん、サキさん……」 「ユキ、こっち向け」 先崎は、待つのが得意な男を甘く誘うと、両頬を包んでキスをした。 この男を、欲しいと思った。その気持ちがキスになると、まるで食い合うような動きを見せる。ねっとりと上下の唇を自分の唇で挟んで吸って、差し入れた舌で上あごをべろりと舐める。 欲しいと欲しいがぶつかって、荒々しいキスは互いの口内を混ぜ合わせるように深くなる。 穂村も、先崎の口内を自由に蹂躙した。先崎は、キスの気持ちよさと苦しさの境目で、溺れそうになった。 どんどんと胸を叩くと、案外素直にキスから解放された。 はぁはぁと荒い呼吸を繰り返して、なんとか息を整えている間にも、穂村は先崎のシャツのボタンを外しにかかる。 その指の動きをじっと見つめていると、落着かせたはずの心臓が、またドンドン走り始める。 「俺ら、すんの?」 「いきなりは、しないです。でも、全部見たいし、触りたいです」 穂村は、先崎の頬を大きな手でゆっくりと撫でた。怖くないですよと、なだめられているようだ。 「俺も、触りたい」 先崎は、穂村のベルトを緩め始めた。 「あ……っ」 途端に、穂村は顔を赤くして先崎の手を止める。 「なんだよ?お前の、触らせろよ」 「だって、あの……いいんですか?」 「はぁ?今更だろ」 呆れたと先崎は笑って、勢いよくデニムのファスナーを下ろした。すっかり上向いたそれが、下着を押し出すようにして飛び出してきた。 それを、布越しにゆっくりと握りしめて、先崎はにやりと笑った。 「これは、俺が好きで、欲しいってことだろう?」 穂村の体の中心を、びりびりと何かが走り抜けた。唐突に沸き上がる強い欲情を、穂村は歯を食いしばって堪える。 「そう、ですけど、でも……」 「な、だから、沢山触ろう?」 先崎は、必死で穂村をたらしこもうとしていた。ここまで来て、後には引けない。引き返したくなかった。もう、待ちたくない。自分と穂村の体を、余すところなく触れ合わせたい。 ……さすがに、いきなり入んねーからなぁ。男って不便 「……なぁ?」 先崎は、ゆっくりと手を動かして、硬い熱を撫でさする。 「サキさん」 「ん?」 「好き、です」 「うん」知ってる。 穂村は、先崎の鎖骨に咬みつくようなキスをして、熱くなった腰をぐいとこすりつけた。  長い間、二人の関係は曖昧なまま。それでも離れられずに、一緒に暮らしてきた。それも、終わった。 終わって、始まった。 恋仲になってみて、わかったことがある。 毎日の、決まりきった挨拶の言葉ですら、甘くて柔らかな空気を纏うようになった。ふわりと香るような思いが、声を少しだけ低くし、語尾を優しくし、ささやかな触れ合いを増やす。 先崎は、穂村の声で目覚め、大きな手に頭を撫でられ、肩を抱かれ、腰を抱き寄せられて、ベッドから起きだす。 それはまるで、暖かくて気持ちの良い肌ざわりのブランケットに包まれているような心地だ。 「今朝の飯、何?ユキ……ユキ?」 さっきまで寝ぼけていた目が、くっきりと開いた。先崎は、穂村の右頬に手を添えて、同時に右目ものぞき込む。 「どうした?具合悪いんだな?そうだよな?」 詰め寄られた穂村は、にっこりと笑って見せて、添えられた手に自分の手を重ねた。 「ただの寝不足です。期末テストと行事と書類仕事の三本立てで」 「それにしたって、いつもよりも」 「ひどいですか?」 「……少し、色が濃い」 先崎は、穂村の右目とその周囲に、灰青色の痣が浮き上がっているのを見つけた。 普段はほとんど気づかない程度なのに、調子を崩したり疲れがたまってくると、その痣は色を増す。目の周りは、肌色のクリームを塗れば隠せるけれど、白目に刷毛ではいたようなグレーは、隠しようがない。 「今日は、伊達メガネをかけていきますよ」 大丈夫ですよと、穂村は笑う。その作った笑顔が、先崎をイラつかせた。 「俺が言ってんのは、そっちじゃねぇよ!」 先崎は、地団太を踏むように、言い募る。 「今日は、少し早めに帰ってくるようにします」 努力しますと言っても、苦笑いが浮かんでしまっているので、いまいち信憑性に欠けるらしい。先崎は、本当に?と上目遣いで睨んでいる。 「心配かけて、ごめんなさい。早く帰ってきますから、一緒に寝てください」 「……一緒に?」 「はい。ちゃんと寝るように、見張っててください」 「……分かった」 ☆  自分がグズグズ言ったところで、どうにもならない。 先崎も、そんな事はわかっている。色を濃くした痣を消すことはできないし、疲れの原因を肩代わりすることもできない。穂村だって、先崎が心配している気持ちを、ちゃんと汲んでくれている。だからこそ、一緒に寝ようとと提案してくれたのだ。先崎が安心できるようにと、それを優先させてくれた。 ならば、頭を切り替えよう。 穂村を送り出した後、先崎はいつものように開店の準備を始めた。 とは言え、荒れた気持ちで掃除をすれば、小さなミスが増える。はたきを振るう手も、荒っぽくなる。これじゃダメだと、はたきを一度手から離した。 小さく溜息をついて、棚から高校生が使うくらいの理科の参考書を抜き出した。 人体の構造、血管、骨格、皮膚の構造、細胞の構造、メラノサイトの役割。参考書には、人間の生物学的な情報が、整然と並んでいる。 これがスタンダードですよと示されているわけだが、人体には、思いの外沢山のイレギュラーが発生する。命に別状があるものからないものまで、多種多様に。 染色体が一本多かったり少なかったり、指が多かったり少なかったり、ある細胞が少し多く集まっていたり、足りなかったり。 生まれもったものは、仕方がない。わかってはいるけれど、穂村を思えば納得しかねる。 もう少し、上手くできないものかと思っても、文句のぶつけ処がない。 先崎は、本を閉じて棚に戻した。雑念を振り払うように、せっせと店内を掃除して、壁面の写真集を抽象画の画集に入れ替えた。 店前に水を撒きに出ると、沢山の人が、どこかに向かってそれぞれに歩いている。 その誰もが、ごく普通の人に見える。先崎も、傷を隠せば、普通に紛れることができる。でも、穂村はそうじゃない。 先崎は、祈るように太陽を振り仰ぐ。 今日ばかりは、少し雲に隠れてもらえないだろうか。曇っていれば、多少なりとも目立ちにくくなるのだから。 ☆  先崎の願いが通じたのか、午後から風が強くなり、黒い雲が湧いてきたと思ったら土砂降りの雨が降り始めた。店は、開店休業状態だ。 暇を持て余した先崎は、痣について検索していた。 先崎にとっては「かっこいい赤い模様」も、当事者にとってはまた違うかもしれないと思ったから、学生の頃から検索しては新しい記事や医者のコラムなどを読み漁ってきた。治療法はないのか。原因は何か。いつか消えるのか。増えるのか。変化するのか。 わかったのは、赤い痣はレーザーで治療できること。でも、完全に消えるとは限らない事。青い痣もレーザーが使えるけれど、眼球はどうしようもないらしいこと。 昔は、保険が効かなかったけれど、今は保険診療ができること。治療には、長い時間がかかること。 今日は、新しい情報は見つからなかった。 先崎が知る限り、穂村は積極的に治療をしたことがない。いつだったか、聞いた事がある。背中だし、男だから気にするなって言われたんですよと笑っていたが、そこに小さな諦めを見た気がした。 その諦めの気持ちを、少しだけ理解できる気がする。不本意ながら、自分にくっついてしまった痣や傷痕なら、折り合いをつけて生きていくしかない。分かっちゃいるけど、お互い辛い時もあるよなと肩をたたき合いたいような、そんな気分だ。 そのくせ、別の心が、穂村の痣に欲情する。 あの痣に触れてみたいと思った。実際に、指で触れて舐めてキスをした。あの瞬間の、震えるような喜びは、誰にも渡せない。そして、穂村が自分の足に触れた時を思えば、腰が熱くなる。舌先をとがらせて、下手くそなミシン掛けみたいな細いくぼみを、丁寧になぞられた。ぴりぴりと感じて熱くなる自分が恥ずかしくて、念入りな舌が嬉しくて、もっともっと、全部を触ってほしくなった。 結局、先崎は、穂村の痣そのものを可哀そうだなんて思っていないのだ。その痣のせいで、奇異の目で見られる穂村の心を可哀そうだと思うだけだ。 大切な人が、そろそろ帰ってくる。 ならば、疲れた心を念入りに労わって、体の全部を撫でてやりたい。 「リクエストにお応えして」 恥ずかしさを、少しおどけた調子に紛らせて、先崎は穂村を寝室に招いた。 そこには、二人分のマットレスの上に二人分の布団が敷かれていた。 「これなら、狭くないですね」 「だろ?さすがにベッドごと動かすのは厳しいし、シングルに男二人は無理。絶対、ユキが途中でベッドから落ちる」 「ずっと一緒で、いいんですか?」 「今日は、ユキを甘やかすって決めた」 覚悟しろよと、先崎の目が甘く光る。穂村は、先崎の腕をぐいと掴んで抱き寄せた。 「仕事、がんばって良かった」 「がんばりすぎだ。ボケ」 「はい」 穂村は、先崎の肩に自分の額をぐりぐりと押し付けて、離れ際に首にキスをした。 「ユキ」 名前を呼ばれて顔をあげると、先崎の手が両頬を包んだ。そのまま軽く引かれて、右目の周りに沢山キスをされた。 「ユキ、ユキ……」 キスの合間に名前を呼ばれて、穂村の体はぐんぐんと熱くなる。先崎の体を手のひらでなぞり、シャツの裾をたくし上げる。 「サキさん……」 ぐいっと腰を強く抱き寄せて、穂村は先崎にキスをした。深く深く、甘く甘く。体の芯まで届けとばかりに、口内をまさぐる。 応える先崎も、その舌を吸って腰を押し付ける。 「んん……ん、な、も、さわっ……」 穂村は、先崎をシーツに押し倒した。  互いのしたい事はわかりきっている。躊躇いなく、着ているものを脱いで、裸の肌を重ね合わせる。 穂村の厚い胸が、先崎の薄い胸にのしかかる。薄い筋肉のすぐ下に感じる骨をなぞって、乳首をつまみ上げる。 「んん、ちょっ……痛っ」 あっと穂村が指を離す。すると、その手を先崎が掴んで胸に戻した。 「もうちょい、優しく」 穂村は、かーっと音がしそうなほどに自分が昂るのがわかった。改めて、小さな乳首をつまんでそっと擦る。先崎の体が小さく跳ねて、唇から吐息が漏れる。反対の乳首を、吸ってみると、一声甘く鳴いたかと思うと、先崎が口を手でふさいでしまった。 「がまん、しないで?」 手をどけると、潤んだ目が睨み返してくる。 「だっ……っんっんっ」 だって恥ずかしい。そう言いたいのだろうけれど、先崎の指がそれを言わせない。やわやわと乳首をいじりながら、また深くキスをした。 いつの間にか、穂村の体は先崎の足の間にあって、傷痕を撫でながら先崎の中心を撫でさすっている。 大きく包んで擦りながら親指の腹で先端を丸くなぞれば、潤んで潤んでつつーと垂れる。その滴が先崎の手を濡らして、淫らな音をたてる。 「可愛い……」 「かわいく、ねえよ……っ」 「可愛いですよ?」 穂村は、左足を肩にかついでがっちり抱えると、熱い中心を一気に飲み込んだ。 「っばっか……!やめっ」 ゆっくりと頭を上下させながら、根本をぎゅっと握りしめる。全部を含んで、舌を絡めて溝をなぞる。 先崎からの抵抗はすぐに止んで、小刻みな浅い呼吸だけが聞こえてくる。次第に内腿に力が入ってきたところで、穂村は一度口をはなした。 「あ……ああ……」 がっかりしたのかほっとしたのか、先崎は大きく深呼吸をして、肩を上下させる。 「イクのは、もうちょっとしてからです」 「お前、割とひどくねぇ?」 「もう少し、やりたい事があるんです。いいですか?」 質問の形をとってはいるけれど、確認しているだけだ。穂村の目が、そう言っている。先崎は、この先を予想して、更に潤みをこぼす。 小さく頷くと、穂村は先崎の両足を、改めて肩に担いだ。 「もう少しさがって」 そう言いながら、腰をぐいと引き寄せられて、先崎の尻は穂村の腿の上だ。広げた足の間が穂村の目の前にあって、そこにはひくひくと蠢く入り口がある。 「あ、の……」 「痛かったり、苦しかったりしたら、教えてください」 先崎は、観念したように頷いて、深く息を吐いた。 ☆  何本もの指が、入り口の周囲を撫でさする。ちゅぷと液体を押し出す音がする。 あああ、体が震える。怖がってしまうのは、おかしくないよな? 軟らかいジェルが触れて、少し冷たくて膝がはねる。遠くで、ユキの声がする。冷たかったですね、ごめんなさい。そんな事はどうでもいいと、首を左右に振っている間に、ジェルを纏った硬いものが押し付けられた。 ああ、指か。 入り口を押し入ってきたものの大きさに、安堵する。 これは、なんだろう、どうなるんだろうと思いながら、必死で呼吸を維持する。 吸って、吐いて、吸って、吐いて。 そのリズムで緩んだり閉じたりする入り口を、ユキの指は少しずつ広げていく。 ああ、そんな。指をそんなところに、引っ掛けるなんて。どこまで伸びるかなんて、俺にわかるわけないだろう。 引っ掛けて、開いた隙間にもう一本指が入ってきた。ぐにゅ、ぐにゅと入り口で動かされていると、妙に気持ちよくなってくる。もっと、もっと、刺激してほしくなる。もっと、入り口を引っ張って、広げて、そのすぐ内側を、指の先で押して。 「ユキ……もう、ちょっと、中も」 「触ってほしい?」 言葉で返事ができなくて、眼をつぶって頷く。 ユキは、ちゃんと言うことを聞いてくれる。二本の指は、ゆっくりと奥まで差し込まれた。それは、浅く出入りしたりぐるりと内壁をなぞったりしながら、隙間を広げていく。 息苦しくて、つい下腹を押さえた。 「痛いですか?」 違うと首をふった。もっと動かしてほしくて、でも、どうしていいかわからない。 「ち、違う、くて、もっと、あの」 「こう?」 ユキが、答えながら指を大きく出し入れした。ああ、そうじゃない。そうじゃなくて。 眉をしかめたら、指を抜かれてしまった。 「あ、だ、め」 「動かないで」 薄めを開けると、ユキが指にゴムをはめている。あれで、どうするんだろう? 「いれますよ?」 ユキの指が、また入ってきた。 「っっふあっっ……あっ!!」 ゴムをかぶせた二本の指は、中で開かれて内壁をぐいぐいと押す。そのまま少し乱暴にかき混ぜるように動いて、奥近くの天井をぐいと押し込んだ 「んんんんんっそっ……れ、だ、め」 「ここ、ですね」 俺の足が、暴れる。もう、ユキの肩の上になんかない。暴れた足を自分で押さえつけるから、ユキの指をくわえたそこが、ユキの目の前に突き出されている。 「あっ……あっっあ、ね、ゆ、き、ね、で、る、あ、」 ユキが、俺の前も握って扱いてくれて、気持ちよく全部を出した。 ああ、なんていう事だろう。 こんな風になるなんて。 気持ち良くて、気持ち良くて、このまま溶けてなくなってしまいそうだ。

ともだちにシェアしよう!