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第5話

「真城司!!」 「…あぁ?」 それは昼休みのことだった。 飯田と購買に向かう為、廊下を歩いていたときのこと。 振り向けばそこには可愛い顔した美少年が居た。 「ねえ飯田、誰あの子」 「一組のす、…すおう?だっけ」 「周防天音だ!」 「すおうあまねさん、なんかよう?」 「藤林委員長に迷惑をかけているようだな!今後関わらないようにしろ!!」 「……なにこいつ」 「さあ?」 「飯田先行ってていーよ」 「あー、分かった」 飯田を先に行かせると、周防はふんぞり返り俺を睨む。 「俺がいつ透に迷惑かけた?」 「いつもだ!お前が近くにいるだけで藤林委員長まで悪と見なされる!!委員長はお前のようなものが近づいていい存在ではない!!」 「……うざー」 「なんだと!?」 「君何様?透のなに?透に言われたのそれ」 「言われなくても分かる!俺は委員長のし、親衛隊のようなものだ!」 「親衛隊?何それ、あいつ王様かなんかになったの?」 「委員長を尊敬し、憧れて止まない者はこの学校に何人も居る!その代表として先日俺が就任したのだ!」 「うわあいたあい、痛いなあその団体」 「なっ!?失礼な!」 「君ー、俺が誰だか分かって言ってんの?すっごい勇気じゃん」 「お前が天使だろうと悪魔だろうと関係ない、俺は俺の意思で俺が思うように委員長をお守りするのだ!」 「……ふぅん。いーんじゃない」 「では、今日から委員長には近寄らな…」 「それはないけど」 「っ!」 「意味分かんないし、透に消えろって言われたら消えるけど。なんで他人の君にそんなこと言われて消えなきゃなんないのか謎。アホか」 「……俺は」 「なに」 「俺は!委員長に思いを伝えた!委員長は俺にキスをしてくれた、だからお前なんか邪魔なんだよ!」 「……なにそれ」 「俺にはわかる、お前委員長のこと好きだろ、好きなくせに言いもしないで傍に居て友達のフリして、卑怯なんだよ!お前みたいなズルい奴が委員長の傍に居るのは許せない!!」 周防が、俺の本当の思いに気付いていたかどうかなんてどうでもいい。 逆上した彼の顔は鬼みたいで醜かった。だけど全身全霊で恋しているその様は美しかった。 思いを伝えた彼が羨ましい。キスしたなんて狂言かもしれないけど、想像すると胸がひどく痛む。 俺は弱虫で、確かにズルい。 死ぬから、居なくなるから、透には好きな人が居るから。いろんな理由を付けて透に思いを伝えない俺。 でもそんなのお前に関係ない。 「失せろよ、今すぐ消えろ、どーなっても知らねーぞ」 昔に戻ったみたいに冷たい声と目でそう言い放つ。 周防は蛇に睨まれたカエルみたいに体中を強ばらせて何か言いたげに逃げていった。 気持ち悪い。 こんなに胸が痛くて、腹が立って、イライラして。 気持ちが悪い。 *** 「すおうあまねって知ってる?」 「は?…知らねえよ」 「ふーん。ねえ透。透の親衛隊あるの知ってる?」 「知らねえよ、何それ」 放課後。 透を誘ってファミレスへ入った。 「あのさ。透キスしたことある?」 「……なんだよいきなり」 「あんの?」 「そんくらい誰でもあんだろ」 「へー。あるんだ」 「……何お前、おかしい」 「透って篠原先生が好きなんじゃないの?誰でもいいの」 「……俺トリプルハンバーグ」 「……俺抹茶パフェ。今日奢って」 「はあ?」 「先生に黙っててあげるから」 「……脅しかよ」 「いーじゃん」 「死ね」 その顔は、すおうあまねとのキスを肯定していた。 俺は自分でも驚くくらい冷めた表情をしていたと思う。 先生が好きだなんて、あんなに幸せな顔して言っていたくせに。 照れて、狂おしいくらい見つめていたくせに。 裏切られた気分だ。 篠原先生には敵わない。先生だし、顧問だし、年上だし、気さくだし、授業も上手いし。憧れてしまう気持ちも、好きになる気持ちも分かる。だけどすおうあまねの良さを俺は少しも理解できない。 じと目で透を見ると、透は目を逸らす。 「透。キスはともかくさ、男とヤれたりする?」 「……お前今日なんなのホント」 「いーじゃん」 「……知らねえよ。やったことねえ」 「でも先生とはできるんだよね」 「知らねえよ」 恥ずかしそうにする透。 いかがわしい想像でもしてるんだろうか。 ブザーを押して二品頼む。 「透」 「……なに泣いてんだよ」 「……俺キスしたことない」 「はあ?」 「悔しい」 「え、大丈夫か?」 奥歯を噛み締める。ギリギリと音がする。 悔しい。あんな見ず知らずの生意気な男に、透の唇を奪われるなんて。 このキャラなら、キスくらいできていたかも知れない。 それをしなかった自分が腹立たしい。 暫くすると店員によってパフェとハンバーグが届けられ、俺は泣きながらそのパフェを頬張った。 透は戸惑いながらハンバーグをナイフで切り刻んで、一口サイズになったそれを食べる。 「女の子なら良い」 「……お前ほんと、支離滅裂だぞ」 「俺は透の親友だと思ってる」 「だから?」 「男にキスするんなら、先生だったら許してた」 「許すも許さないもないだろ」 「……透。男で初めてセックスするなら俺にしてよ」 「ブッ、ごほ、…っおい!」 ハンバーグのカケラが机に少し散らばる。 「汚いなあ」 「お、ま、バカか!?」 「バカじゃない」 「冗談も、たいがいにしろ」 「冗談じゃない」 「……それ、今言う話か?」 「………言うつもり、なかった」 「…まじかよ」 ものすごく困った顔をしている。 ざまあみろ。 俺は少し笑った。

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