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第6話

スマホの画面を操作する。フォトフォルダの中に写るのはほとんどが好きな男の姿だった。 大多数が記念にとか言って、まるで女子みたいにおちゃらけて撮ったものだけど、たまに隠し撮りなんかもした。無防備な姿をさらす透。俺を信用しきっている透。 裏切られたらどんな顔をするんだろう。 そう思った時もあった。 でも、変わらない今を望んで続けようとしていた俺は周防の影響もあってかそれをやめた。 あの後俺たちは二人していつもと変わらない態度を装って、普通にそれぞれの家に帰った。 きっと透の内心はヒヤヒヤしていたと思う。 透と別れて一人になった帰り道、透に電話をした。 改めて透に好きだと、言った。 言ってしまった。 言うつもりなんかなかった。 でも知って欲しいって思ってしまった。 忘れて欲しくない、せめて分かっていて欲しいと思ってしまった。 すおうあまねにできて、俺にできないわけがないと思った。 あんなぽっと出に負けたくないと思った。俺の方がずっと思っている。 それでも、親友だと思っていた存在からそんなことを告げられた透はどんな気持ちだったんだろう。 通話はいつの間にか終わっていた。 ベッドに寝転がり、写真一枚一枚を丁寧に見直す。 どれも、俺の好きな透。 笑ってるのはあんまりない。 ピースしてるのなんてレア中のレア。 俺のこと、友達って思ってる顔だ。 明日から透は俺にどんな顔を向けるのかな。 俺はどんな顔を透に向けるのかな。 そのまま俺は眠りについた。 *** 朝起きて顔を洗う。カチューシャで前髪を全部上げたその顔には、忌まわしい呪いの模様が浮かんでいる。鏡の中の俺の顔は無で、能面みたいだ。歯磨きをしている間もその模様ばかりに目がいった。 気のせいじゃなければ、それは更に色を深め黒に近づいていた。時が来るのだろう、改めてそう思う他なかった。 制服に着替えて、カチューシャを外す。手ぐしで髪を無造作に整え、作り笑いを浮かべる。 無駄に金をかけた高層マンションを出る。 もうすぐ、死ぬ。 考えれば考える程、空しくなって笑えた。 *** 「はよー」 「おはぽよ」 「昨日の今日なのに機嫌いいじゃん」 「あー、周防?あいつならもう俺に近寄んないと思うし」 「何かしたん」 「いーや、睨んだだけ」 「ひえー、そりゃ悪鬼とまで言われたお前に睨まれりゃ懲りるわ」 「なに、俺悪鬼とか呼ばれてたの?中二病かよ恥ずかし」 「どクソ不良だったからなあお前は」 「ふーん」 「ふーんじゃねえよ!」 飯田はいつも通り。 俺もいつも通り。 休み時間もいつも通り。 委員会のない今日は、普通に帰る。 透には会わなかった。 次の日も。 その次の日も。 透には会わなかった。 休みを挟んで、月曜日も会わなくて。 そのまま当番のある火曜日になった。 ケータイに連絡が来ることも特になかった。 俺は、ただ決められた仕事として図書室に向かった。 中には透が居た。 いつか見た推理小説をまた読んでいた。 「おつかれ」 「ああ……おつかれ」 「とーる、俺のこと怖いの」 「はあ?なんで俺がお前を怖がるんだよ」 「避けてんじゃん」 「お前こそ」 「……それは否定できないわ」 いつも、どちらともなく歩み寄っていた。 数日間、俺たちはどちらも、歩み寄れなかった。 「言うつもりなかったんだけど。困らせてごめん」 「お前が素直に謝るとか、こわ」 「だって、……ま、いーや。もう忘れてくれー!あー恥ずかしい」 「なんだよ忘れろって」 「好きな奴がいる奴に告白とか恥ずかしいだろ、しかも男だし、お前だし、あーきも」 「んだそれ、……お前ふざけてんの」 「えー?なに怒ってんの」 透は怒っていた。 目に怒りの色を浮かべて、音を立たせて椅子から立ち上がった。 ずかずかと俺の目の前まで歩いてきて、俺の襟首を掴む。 「なに」 「俺は、篠原が好きだ」 「……知ってるよ」 「……お前のこと、気付かなくて悪かった」 「べつに。言う気なかったし、篠原先生に夢中な透が気付くわけないよ」 「無意識に傷つけてただろ。悪い」 「謝られると余計むかつくよ、はあ……」 目の前にある透の顔。 怒りよりも悲哀の色が強くなった優しい目。 そんな透の鼻先にキスをした。 「っ!?」 慌てて俺を突き放した透。 俺はたたらを踏んでよろけ、図書室の扉に音を立ててぶつかった。 「いった」 「お、お前何してんだよ!」 「えー、キ・ス」 「ふざけんな!」 「口じゃあるまいし、いいじゃん」 「きも!しね!」 そして、いつも通り。 俺の気持ちは、これで終わりにしよう。言えた、それだけで十分だろ? へらっと笑った俺に、透はいつもの顔に戻って、可笑しそうに笑った。

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