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せめて 抱きしめて〜起〜 12
ボクは部長から目をそらすと、何事もなかったかのように、足早に通りすぎようとした。
したのだが、部長がいきなりボクの腕を掴(つか)んだ。
「待てよ」
「あの・・・用事があるので」
「つれないこと言うなよ。昔は一緒に愉(たの)しんだ仲じゃん」
「やめて下さい!」
掴まれた腕を振り払おうとするが、部長の力は強く、ボクが敵(かな)うはずがない。
「痛い・・・放して下さい・・・」
この人は苦手だ。
犯された記憶が強くて、恐怖心がどうしても拭(ぬぐ)えない。
あの頃、ボクが暴れたり抵抗したりすると、殴ったり蹴ったりされた。
それだけで足りない時は、ボクの中に太すぎてとても入りそうもない、ムースの缶や大根なんかを突っ込もうとされた。
どんなにローションを塗って慣らしても、とてもじゃないが入らない物で、ボクを痛めつけた。
当然裂けるので痛くて痛くて、泣いて謝ることしかできなかった。
抵抗せず、ただ受け入れて、自分から甘えて誘えば、暴力を振るわれることはなかった。
その記憶が強く、ボクはこの人を前にすると、恐怖で体が竦(すく)む。
部長はボクの様子を見て、にやにやと笑っている。
「お前いま高2だっけ?」
「はい・・」
「もう2年くらい会ってなかったか・・・久しぶりに犯らせろよ」
「え・・・?!」
体がビクッと震える。
嫌な記憶が蘇(よみが)える。
「どうせ今でも男咥(くわ)え込んでるんだろう?オレがそうなるよう調教したからな」
「いや・・・」
「いいから来いよ」
部長はボクの腕を掴んだまま、引きずるように歩き出す。
「痛い・・放して下さい!」
ボクは悲鳴にも似た声を出して、懇願するように言った。
ものすごい強い力で引っ張られて、肩が抜けそうだ。
こんなところに来るんじゃなかった。
やっぱり来るんじゃなった。
また、この人に犯される。
嬲(なぶ)りものにされる。
あんなのは、もう嫌だ!
「放して!」
ボクは腕を一生懸命振って、部長から逃(のが)れようとする。
ボクと部長の異様な光景に気付いているのに、周りの人は知らん顔だ。
いつもそうだ。
誰も助けてはくれない。
どうして・・・ボクばっかりこんな目にあうの?
絶望に打ちひしがれそうになっている時に、不意にボクの腕を掴む部長の腕が、誰かの手に掴まれた。
「おい、嫌がってるじゃないか。放せ」
びっくりして見ると、大柄で筋肉質な体格をしている男の人だった。
日に焼けてはいないので、室内で何かのスポーツをしているのだろう。
髪も男らしく今時角刈りにしている。
身長が高くて、165cmあるボクの頭が肩まで届くかどうかだ。
決してイケメンではないが、男らしい精悍(せいかん)な顔つきをしている。
こんな街には似合わない、黒いTシャツにジーンズを着ているその人は、部長の腕をそのまま背中のところで捻(ひね)り上げる。
「いててててっ!!」
部長が情けない声を上げて、腕を捻られている。
「どんな理由があっても、女性に手を挙げるなんて、男として恥ずかしいと思え」
その人は低い声でそう言って、そのまま部長を押して、腕を解放した。
部長は突き飛ばされて、前につんのめりながら、そのまま逃げて行った。
その人は部長が逃げるのを確認すると、ボクに向き直って、
「大丈夫ですか?」
と本当に心配そうに訊ねて来た。
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