16 / 112
せめて 抱きしめて〜起〜 16
*
ピピピッピピピッ・・・
電子音が耳元で鳴っている。
アラームが鳴り出したのだ。
微睡(まどろ)みを揺蕩(たゆた)っている頭でぼんやりと理解する。
瞼(まぶた)をゆっくりと開ける。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいるのが見える。
ああ・・・朝だ・・・。
久しぶりに嫌な夢も見ず、ぐっすり眠った感覚がある。
頭が冴えている。
気持ちのいい目覚めだった。
ボクはのっそりとベットから出て、制服に着替える。
黒いズボンにダークグレーのジャケット。
胸ポケットに校章のエンブレムが縫い付けられている。
白いシャツに黒いネクタイをする。
これがボクの通う高校の制服だった。
色が濃いから、学校でする時は全部脱がないと染みになるのが難点だった。
もっとも、そんなこと気にするのは、平気で学校でするボクくらいだろう。
鞄を持って一階に下りる。
そのまま洗面所に行き、顔を洗って、髪を整える。
ここまでやって、やっと寝呆けた頭が完全に起きてくれる。
櫛(くし)を通せばいいだけなので、朝だけは直毛がありがたかった。
身支度を整えて、キッチンに行く。
朝は牛乳だけ飲んで行く。
昨夜も食べていないけど、まだ食欲はなかった。
キッチンの扉を開けると、ジューッという音が聞こえてきて、びっくりして立ち止まる。
恐る恐る扉から顔を覗かせると、そこにはフライパンで何かを焼いている母の姿があった。
こんな朝早くに母が来ていることに、ボクは驚いてしばらく動けないでいた。
昨夜のことがあるから、それで来たのかもしれない・・・。
ボクは何とか足を動かして中に入ると、
「・・・おはよう」
と声をかけた。
母はボクに振り向くと、朝なのに綺麗に化粧を施した顔で、
「おはよう」
と笑った。
美人だと、息子のボクでも思う。
ドングリの形の目は大きくいつも潤んで輝いている。
鼻筋が通っていて、口唇は少し厚めで肉感的。
眉毛は丁寧に整えられている。
肌は白くて透けそう。
「こんな早くにどうしたの?」
普通に話したつもりが、少し嫌味っぽくなってしまった。
自分ではいつもの事だと、気にしていないつもりだったのに、意外とショックだったのかな・・・。
ボクは、鞄をテーブルに置いて、冷蔵庫から牛乳を取り出し、グラスに注いだ。
白くて冷たい液体が、グラスを満たしていく。
ボクはグラスを傾けて、その液体を口に含んだ。
母は、火を止めてフライパンで焼いていた、目玉焼きとベーコンをお皿に移した。
「昨夜はごめんね。終わるはずの撮影が長引いちゃって・・・」
「別に・・・いつものことだし・・・気にしてないよ」
「せめて朝は一緒にって思って」
「・・・ボク、朝食べないから」
牛乳の味が少しおかしい。
苦味を感じる。
一昨日買ったばかりなのに腐ったのかな・・・。
ともだちにシェアしよう!