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せめて 抱きしめて〜起〜 16

* ピピピッピピピッ・・・ 電子音が耳元で鳴っている。 アラームが鳴り出したのだ。 微睡(まどろ)みを揺蕩(たゆた)っている頭でぼんやりと理解する。 瞼(まぶた)をゆっくりと開ける。 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいるのが見える。 ああ・・・朝だ・・・。 久しぶりに嫌な夢も見ず、ぐっすり眠った感覚がある。 頭が冴えている。 気持ちのいい目覚めだった。 ボクはのっそりとベットから出て、制服に着替える。 黒いズボンにダークグレーのジャケット。 胸ポケットに校章のエンブレムが縫い付けられている。 白いシャツに黒いネクタイをする。 これがボクの通う高校の制服だった。 色が濃いから、学校でする時は全部脱がないと染みになるのが難点だった。 もっとも、そんなこと気にするのは、平気で学校でするボクくらいだろう。 鞄を持って一階に下りる。 そのまま洗面所に行き、顔を洗って、髪を整える。 ここまでやって、やっと寝呆けた頭が完全に起きてくれる。 櫛(くし)を通せばいいだけなので、朝だけは直毛がありがたかった。 身支度を整えて、キッチンに行く。 朝は牛乳だけ飲んで行く。 昨夜も食べていないけど、まだ食欲はなかった。 キッチンの扉を開けると、ジューッという音が聞こえてきて、びっくりして立ち止まる。 恐る恐る扉から顔を覗かせると、そこにはフライパンで何かを焼いている母の姿があった。 こんな朝早くに母が来ていることに、ボクは驚いてしばらく動けないでいた。 昨夜のことがあるから、それで来たのかもしれない・・・。 ボクは何とか足を動かして中に入ると、 「・・・おはよう」 と声をかけた。 母はボクに振り向くと、朝なのに綺麗に化粧を施した顔で、 「おはよう」 と笑った。 美人だと、息子のボクでも思う。 ドングリの形の目は大きくいつも潤んで輝いている。 鼻筋が通っていて、口唇は少し厚めで肉感的。 眉毛は丁寧に整えられている。 肌は白くて透けそう。 「こんな早くにどうしたの?」 普通に話したつもりが、少し嫌味っぽくなってしまった。 自分ではいつもの事だと、気にしていないつもりだったのに、意外とショックだったのかな・・・。 ボクは、鞄をテーブルに置いて、冷蔵庫から牛乳を取り出し、グラスに注いだ。 白くて冷たい液体が、グラスを満たしていく。 ボクはグラスを傾けて、その液体を口に含んだ。 母は、火を止めてフライパンで焼いていた、目玉焼きとベーコンをお皿に移した。 「昨夜はごめんね。終わるはずの撮影が長引いちゃって・・・」 「別に・・・いつものことだし・・・気にしてないよ」 「せめて朝は一緒にって思って」 「・・・ボク、朝食べないから」 牛乳の味が少しおかしい。 苦味を感じる。  一昨日買ったばかりなのに腐ったのかな・・・。

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