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せめて 抱きしめて〜起〜 17

いやな沈黙が下りる。 そんな中にポップアップ式のトースターが、チンっと軽快な音を立てた。 ベーコンやパンはもともと買い置きがないので、わざわざ買って来たらしい。 母は、無言のままボクの前に皿を置いて、焼けたトーストにバターを塗り始めた。 「・・・いらないって」 そう言っても母は、ボクの前と自分の前に皿を置いて、ナイフとフォークを用意する。 目の前に置かれたベーコンエッグとトースト、サラダにボクは溜め息をついた。 これ以上言っても無駄なので、ボクはカトラリーを手に取って、仕方なく食べ始めた。 もの凄く久しぶりに、家でご飯を食べる。 それも母の手料理だ。 何年振りにこうして一緒に食事するのか、思い出せない。 母もベーコンを切って食べ始める。 会話はなかった。 何を話せば良いのかわからなかった。 口を開いたら、昨夜のことや、今までのことを責めてしまいそうで、何も言えなかった。 母も同じ気持ちなのか、何も言わなかった。 息苦しい食事を終えて、ボクは牛乳を飲み干すと、席を立つ。 鞄を取って学校に行こうとすると、母が小さい声で、 「・・・いってらっしゃい。勉強、頑張ってね」 とボクの背中に言う。 ボクは、振り返らずに、 「・・・いってきます」 とだけ言うと、急いで靴を履いていつものように通用口から外に出た。 勉強なんてしていない。 通知表は気にするから見せているが、勉強して取った成績じゃない。 全部セックスして稼いだ成績だ。 ボクが学校でセックスしかしてないって知ったら、どんな顔をするんだろう? 全部ぶちまけるのも、面白いかもしれない。 そんなことを思ったが、そんなことをする勇気はなかった。 ボクは家の敷地から出て、そのまま駅へ向かう道を歩く。 もう、学校に行く気なんかなくなっていた。 何もかもが嫌で、バカバカしくって、憂鬱だった。 ボクは駅について、電車に乗る。 でも、学校のある駅では下りなかった。 終点まで行って、また折り返す。 それだけで2時間くらい経つ。 さすがにそれだけ時間が経てば、母はいなくなっているだろうと予想して、こんなことをしている。 ボクは折り返して駅を出ると、家に向かった。 案の定、家の中に母はいなかった。 使った皿を片付けて家を出たらしい。 ボクはそれを確かめると、二階の自分の部屋へ向かい、鞄を放り投げて、ジャケットを脱いだ。 そのままベットへ寝っ転がる。 何もする気力が湧かなかった。 昨夜ぐっすり眠ったせいか、眠くならない。 ボクは仕方なくスマートフォンを取り出すと、アプリを開いてゲームを始めた。 意味のない時間を過ごしていると、いつの間にかうたた寝をしていた。 はっと目を覚ますと、時間は15時を指していた。 もうこんな時間か・・・結構寝ちゃったな・・・。 ボクは体を起こして大きく伸びをした。 そうだ・・・ハンカチ買って、あの人に会いに行こうと思ってたんだ。 ボクはあの人の優しい温かい笑顔を思い出す。 もう一度、会いたかった。 あの笑顔を見たかった。

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