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せめて 抱きしめて〜起〜 18

* 青いTシャツにジーンズに着替え、夜は少し冷えるので、黒と白のチェック柄の厚手のシャツを持って家を出る。 T大までは3駅先の駅で乗り換える。 ボクは乗り換え駅で一旦下りて、駅のデパートにハンカチを買いに行った。 何色が好きなのか全くわからないので、薄い緑の無地のハンカチにする。 ラッピングしてもらって、小さい紙袋に入れてくれたそれを提げて、ボクはT大へと向かう。 本当は高校生なんか来ちゃいけないんだろうけど、私服だと目立たずに潜入できるだろう。 誰にも何も言われないだろうと思いつつも、少しドキドキしながら校門をくぐった。 大学なので在学生は高校とは比べ物にならないくらい多い。 そのおかげもあって、ボクは誰にも何も言われずに敷地内に入ることが出来た。 校門から校舎まで長い道が続いている。 その道の両脇は木が植えられていて、並木道になっている。 更にその奥には所々に花壇や、ベンチがあって、思い思いに人が利用していた。 本を呼んだり友達と喋ってたり、絵を描いている人もいた。 ボクは柔道場を探すべく、大学構内図を見つけて道のりを頭に叩き込んだ。 現在地から右手に体育館や講堂があり、その更に奥に柔道場があった。 ボクは覚えた道を辿って、体育館を通りすぎて、柔道場を発見する。 外観は和風の造りをしていて、いかにも道場という感じだ。 屋根の形や梁(はり)の太さ、扉の重々しさに、建てられてから結構な年月が経っていることを伺わせる。 田所さんがいるかいないか、外から眺めていてもわからないので、ボクは開いている出入り口から、顔を少し出して中を見る。 道場なのでちゃんと青々とした畳が敷かれていて、その畳の上で柔道着を着た部員達が組み手の練習をしていた。 みんな同じ道着を来て、似たような髪型をしているので、どれが田所さんかわからなかった。 もうちょっと近くに行けば見えるかな・・・どうしよう・・・。 道場の中と、人が行き交う道と、キョロキョロして探していると、不意に真後ろから声をかけられた。 「何してるの?」 「わっ・・・?!」 思わず声を上げてしまった。全然気配を感じなかった。 振り向くと薄いピンクのジャージを着た女性が、不審者を見る目でボクのことを見ていた。 髪を肩口で切って、少しカラーリングしている。 顔は少し化粧をしている程度で、美人でもなくブスでもない普通の容姿だった。 その女性は無遠慮に上から下まで何度も視線を走らせて、怪しいヤツと全身で言っている。 「あの・・・田所さんっていますか?」 恐る恐るきいたので、ものすごく小さい声になってしまった。 目の前の女性が何だか威圧感があり、真っ直ぐ目を見て話せないほどだった。 女性はあまり大きくない胸に、バインダーを抱きしめている。 ジャージを着ていることといい、もしかしたらマネージャーでもやっているのかもしれない。 女性は田所さんの名前を聞くと、少し表情を緩めた。 「あいつの知り合い?」 「はあ・・・はい。ここで部活やってるって」 「あいつ今日は来ないのよ。明日なら来ると思うけど」 「そうですか・・・」 なんだ・・・いないのか・・・。 せっかくハンカチ買って来たのに。 なんだ・・・。 ボクが自分で思ったよりも沈んだ表情をしたようで、女性は慌てて、 「何なら連絡しようか?」 と一転して優しい声をかけてくれた。 「いえ、いいです。明日また来ます」 ボクは慌てて言って、お辞儀をして走り出した。 名前とか余計なことを聞かれると、大学の生徒じゃないとバレそうだ。 そのまま来た道を通って家に帰ることにした。

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