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せめて 抱きしめて〜起〜 21
田所さんはボクの提案を受け入れて、ボクの歩調に合わせて隣を歩いてくれる。
ボクは隣に田所さんがいることに、妙に緊張しながら、
「あの・・・ハンカチ返そうと思って・・・血が落ちなかったから、新しいの買いました。それに・・・助けてくれたお礼もまだだったし・・・」
ボクはそう言うとぶら下げていた紙袋を差し出した。
「え?それで来てくれたの?別に良かったのに」
田所さんは照れくさそうに言いながら、ボクの手から紙袋を受け取ってくれた。
隣に立つ田所さんの表情がよく見えない。
背が高いので下から見上げていると、全然わからなかった。
もしかして、迷惑だったかな・・・めんどくさいって思われてる・・・?
思考がマイナスに向かう。
昔からのボクの癖だ。
田所さんは、不意にボクの顔を覗き込むように屈んで、ボクの瞳を見つめてきた。
「ありがとうございます。わざわざごめん」
言葉は短いけれども、ストレートに気持ちが伝わってくる。
優しくて暖かい笑顔。
この人にもう一度会いたかった。
今までボクの周りにこんな人はいなかった。
並んで歩いているだけで、いつも歩いている道が、景色が違って見えた。
木の緑が鮮やかに映えている。
ツツジの赤やピンクの花がとても綺麗。
空の雲が夕陽の朱に染まっている。
空の色も朱っぽいピンクっぽい不思議な色に変化していく。
景色がこんなに綺麗だと思ったことはなかった。
何故か泣きそうに切ない気分になっていると、田所さんが、
「高2だとそろそろ進路のこととか考えてる?」
と普通に話しかけてくれた。
「まだ考えてなくて・・・」
「でも進学校だから大学行くんだろう?」
「・・・親は行けって」
そんなことを話しながら歩く。
ボクが自分のことについてあまり話したがらないのを察して、自分のことを話してくれた。
母親は病死していて、父親が警察官なこと。
父親はノンキャリアなので、息子をキャリア組で警察官にするつもりなこと。
父親を尊敬しているから、立派な警察官になりたいと、瞳を輝かせている。
ああ・・・そうだよね・・・ボクもこんな風に将来の夢を持ちたかった。
何故・・・こんな事になったんだろう・・・。
いつから狂ってしまったのだろう?
田所さんの話しを聞いていると、自然と笑顔になり、強烈な切なさを感じて、泣きたくなってくる。
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