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せめて 抱きしめて〜起〜 22
目に涙が滲(にじ)み出した時、田所さんが、
「あ、じゃあオレこっちなんで」
と、駅には行かずに手前の道を指さす。
ボクはてっきり大学に行くために電車に乗ると思い込んでいたので、道を折れようとしている田所さんに慌てて縋(すが)りつく。
「あの!これから時間あったら、食事行きませんか?!」
「え・・・」
「お礼、まだちゃんとしたお礼してないです」
上着の裾(すそ)を掴んで、ボクは必死になって引き止めていた。
このまま別れたくない。
もっと一緒にいたい。
もっといろいろ話したい。
もっと田所さんのことを知りたい。
お願い・・・一人にしないで・・・。
ボクは手が震えてしまうのが止められなかった。
このまま離れるのが恐かった。
田所さんは、必死に裾を掴んで俯(うつむ)いて震えているボクの手を、そっと包み込むようにして触れる。
「ごめん・・・これからバイトなんだ」
ボクは顔を上げて、上着の裾を放した。
まだ手が震えている。
「そうですか・・・すみません・・・」
声も震えている。
何でこんなに一緒にいたいのかわからない。
「この先のファミレスだから、客としてなら一緒に行こうか」
「はい!」
田所さんが優しく笑いながら、ボクの手を引いて歩き出す。
手を繋いでいる感じがして、一気に恥ずかしくなる。
でも手を振り払う気は起きなかった。
田所さんは今まで出逢った誰とも違った。
真面目で暖かくて、一緒にいて安心する。
何より、ボクをセックスの対象として見ていないのが、新鮮だった。
親みたいに疎ましく思っていないことも、嬉しかった。
この人が欲しい。
素直にそう思った。
ずっと一緒にいたい。
こうして隣を歩きたい。
繋いでくれるこの手を離したくない。
だから、だから。
ボクは、この人を手に入れようと決心した。
どんな手を使っても、体を差し出してでも。
どうしても、この人が欲しかった。
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